8月の家族たち (2013):映画短評
8月の家族たち (2013)ライター2人の平均評価: 4
「ビッチ!」と叫びたくなるメリル・ストリープの怪演
父親の葬儀に集まった家族の間で次々と暴露される機能不全ぶりに唖然だが、メリル・ストリープ演じる母親から一瞬たりとも目が離せない。冒頭、サム・シェパード演じる夫の「妻は薬中で、俺はアル中」という独白後にラリった感じのメリルが登場し、おおっとなる。その後もろれつが回るぎりぎりの口調で家族に嫌味や罵詈雑言を吐き続け、若く美しかった時代に思いを馳せる。ひとり『グレイ・ガーデン』? 思わず画面に向かって「ビッチ!」と叫びたくなったほど。多くの女優が目標とするメリルが本作で披露する実力と存在感こそがマスタークラス。マッドネス一歩手前の、踏み外したら奈落の底というライン上をふらつく老女の哀切がリアルだ。
演劇的な、あまりに演劇的な。
なんという豪華俳優陣!まさに演技合戦の様相を呈して壮観ではある。だが……邪悪なまでの近親憎悪を吐きまくって場をさらうメリル・ストリープがとりわけそうだが、演技のスタイルがあまりにも舞台的で鼻白む。キャメラワークも切り返しばかりで芸がない。戯曲家自身による脚色も生半可で、舞台ならさぞ観客の笑いとの相乗効果があるだろうに…と想像させるシーンも散見(例えばメリルとJ.ロバーツとの「catfish(なまず)」の語の繰り返しなど)。女性作家が女性の生理の厭らしさを描くのが苦手な男性諸氏にはむしろ、相変わらずスターの気配を消したE.マクレガーはじめ男優陣のそろってクールな佇まいこそが魅力かも知れない。