死霊館 (2013):映画短評
死霊館 (2013)ライター3人の平均評価: 4.3
限りなく現実の恐怖体験に近い!震え上がる感覚が甦る傑作ホラー
深夜、何気ない軋みにすら敏感に反応してしまう。本作が、真の恐怖を招き寄せたせいだ。
近年のホラーの主流に抗っている。主観撮影でリアリティを声高に唱えることもなく、執拗な特殊効果もなければ、目を背けるような残虐さもない。1971年という時代背景が丹念に再現され、悪魔払いを使命とする実在したウォーレン夫妻が紹介されたあと、単刀直入に忌わしき事件へといざなう。平凡な夫婦と5人の娘が引っ越して来た、片田舎の古びた一軒家。愛犬は家に入りたがらず、家中の時計は同じ時刻に止まった。そして現象が始まる。出没、憑依、攻撃――映画の構成は、純粋に悪魔の法則に従っている。音と気配の演出が秀逸だ。取り憑かれた家で、何も起きないカットの積み重ねが恐ろしい。引き画のワンショットの中に、突如入り込む恐怖の対象。脅えが極まった瞬間にカットアウト。抑制が効き、計算され尽くした生理的かつ根源的な恐怖が、ただひたすら観る者を襲うのだ。
もはやJホラーは過去のものとして、貞子のバラエティ化に走った日本の映画人は、悔しさでうなされているだろう。これは、震え上がる感覚を甦らせる心理ホラーの傑作だ。
潔いくらいにストレートな絶叫ホラー
ゾンビもヴァンパイアも結構やりきったよね…ということなのか、このところ徐々に増えつつある心霊ホラー。しかし、モキュメンタリーという仕掛けが全てだった「パラノーマル・アクティビティ」の大成功を例外とすれば、これといって盛り上がるような様子もなく。「エクソシスト」や「たたり」など古典のプロトタイプに縛られたり、小手先のアート系を気取ってみせたりする退屈な作品が多い中、臆することなくストレートな絶叫ムービーを志向した本作の潔さは逆に新鮮だ。
確かに、こちらも「家」や「悪魔の棲む家」なんかの亜流に違いないのだが、前戯も早々に本番へと突入するスピード感に一切の迷いなし。不安を煽る心理描写やメタファーなどの遠回りも必要最小限。こうした幽霊屋敷ものでは移り住んできた家族にいろいろと問題があったりするものだが、本作の場合は貧しいながらも肩を寄せ合う仲良し一家が凶暴な悪霊の理不尽極まりない仕打ちに地獄めぐりさせられる様を、文字通りジェットコースター感覚で描く。ノリとしてはほぼアクション。取り憑かれたリリ・テイラーの狂乱ぶりがまた圧巻だ。その突き抜けた姿勢は痛快ですらある。
実話に即したつくりだからこそ怖い幽霊奇談
2013年、ホラー映画としては現時点で全米最高の興行収入を上げている作品であり、『インシディアス』のジェームズ・ワン監督の新作である。ホラー好きとしては期待せざるをえないが、それに応える堂々たるオカルト映画で、嬉しくなる。
一軒家に引っ越してきた一家を襲う心霊現象という話はよくあるが、その謎に挑む心霊研究家夫婦の推理の過程がたどられ、スリルが広がる。登場人物は多いが、誰もが“何か”に脅かされ、それらがすべてショック描写として機能しているのでビジュアル的にも見どころがある。
しかし、何よりも本作の恐怖を支えているのは実話という要素だろう。心霊描写に映画的な脚色はあるものの、ドキュメンタリーを思わせるワン監督の演出は、それらをリアリティと地続きのものとして体感させる。次作『インシディアス2』も楽しみになってきた!