スーサイド・ショップ (2012):映画短評
スーサイド・ショップ (2012)ライター2人の平均評価: 4
大人の国フランスが生んだ大人向けの寓話
パトリス・ルコント監督初のアニメ。人々が生きる気力を失った架空の街で、自殺用品専門店を営む一家に生まれた超ポジティブな少年アランが、暗く澱んだ世界を明るいバラ色に変えていくブラック・コメディだ。
一歩間違えると不謹慎になりかねない題材が散りばめられているだけに、実写ではなくアニメにしたのは大正解。「人生に失敗しましたか?私たちなら失敗なく逝かせてあげます」という自殺用品店のキャッチフレーズからして絶妙に毒が効いている。希望の見いだせない閉塞社会、われ先にと自殺へ走る人々。まるで現実をカリカチュアしたような世界が描かれるわけだが、本作ではそんな暗さをミュージカル仕立ての辛辣なユーモアで笑い飛ばし、人生って楽しくない?というアラン少年のストレートな楽天性であらゆる悲観主義を木っ端微塵にする。そう、人間生きているだけで儲けものなのだ。
ティム・バートンにも匹敵する鋭い風刺精神、「ベルヴィル・ランデブー」を彷彿とさせるようなキモかわいいビジュアル。アニメ作家としてもルコント監督のセンスは抜群に冴えている。大人の国フランスが生んだ大人向けの寓話。気分の落ち込んだ時にこそ見て欲しい。
後ろ向きな人々を見て人生を楽観したくなるパラドックス
飛び降り自殺した人々が次々と空から降ってきて、鳩までが絶望して自死してしまう。のっけから衝撃的な世界観に唖然とさせられる本作は、フランスの作家ジャン・トゥーレの原作のアニメーション化。パトリス・ルコントが実写化を諦めたのは正解で、これはアニメーションでなければ不可能な企画だ。
加えてミュージカル仕立てにしたアイディアが秀逸(楽曲のレベルも高い!)。「死を成功させよう」と高らかに歌う自殺用品専門店の主人に、ねずみまでもが「人生つまらなくて当然」と合唱する。陽気なのか陰気なのか、しかもこれほど”死”を連呼していいのか?と戸惑うも、あまりにも悲観的な人々の姿に「何もそこまでして死ななくても…」と不謹慎にもおかしくなってくる。徹底的に後ろ向きな人々の姿をみせて、もっと気楽に生きたらいいんじゃないのと前向きな気持ちにさせるパラドックス。これって漠然とした不安を抱える現代人への荒療治に最適な映画かも?
ともすれば悪趣味になりかねない題材。だが、ルコントは現代社会の通念としてはびこるネガティブ思考を、強烈な批判精神とアイロニカルな視点から自虐的に笑い飛ばす形で娯楽に昇華させている。