アメリカン・ハッスル (2013):映画短評
アメリカン・ハッスル (2013)ライター4人の平均評価: 4
濃厚なメンツによるカオスのような人間模様に呑み込まれる
改めて、デヴィッド・O・ラッセル監督が俳優の魅力と演技を最大限に引き出しながらドラマを語る達人、つまり“役者の監督”であることを再認識させる作品だ。
冒頭から必死にハゲ頭を隠すメタボ体型の詐欺師クリスチャン・ベイルに衝撃を受け、さらに鉄火肌で気丈夫な相棒エイミー・アダムス、野心家で暴走気味の捜査官ブラッドリー・クーパー、情緒不安定でイカれた詐欺師の妻ジェニファー・ローレンスら、コッテリと濃厚なメンツによるカオスのような人間模様に呑み込まれていく。
これは硬派な実録映画でも奇抜な犯罪映画でもなく、決して優等生にはなれない落伍者たちへ捧げた大いなる人間賛歌。ラストのどんでん返しも痛快!
ダメ人間たちのスリリングな駆け引きの中で光る愛の物語
『アルゴ』に似た実録劇だがテイストは異なる。ラッセル監督が軸にしたのは『世界でひとつのプレイブック』と同様、イビツなラブストーリーだ。
詐欺師カップルを中心に野心的なFBI捜査官や詐欺師の悪妻、市政のために汚職を働く市長などクセ者がうごめく。正しい行ないをする者はいないが誰ひとり憎めない。そんなグレイゾーンの中で主人公カップルの愛情だけが唯一、応援したくなる要素。そういう意味では焦点が絞れている。
全米賞レースの結果が示すとおり役者陣は皆ハンパ者的なキャラを妙演しており、そのアンサンブルは申し分ない。誰かひとりが優れているというより、むしろラッセルのパランスのとれた演出力を褒めたい。
圧倒されるほど見事なキャストのアンサンブル
主要キャスト4人がオスカー主演&助演候補になったように、キャストのアンサンブルが尋常じゃない!そこにスパイスでデ・ニーロもブチ込まれるほか、かなり入り組んだストーリー展開で、観る者を振り回してくれる。しかも、集中しようと思えば思うほど、女優陣の胸の谷間が気になってしょうがない!
ファッションも言動もトゥーマッチな70年代が舞台だけに、“デビッド・O・ラッセル版『ブギーナイツ』”としても楽しめるが、『アルゴ』に笑いとエロ要素をプラスした面白さは身震いするほど。現実では悲劇に終わったジェニファー・ローレンス演じるビッチ妻に、あのエンディングを用意した監督の優しさにも泣けてくる。
壊れた連中が右往左往する絶対すべらない詐欺話
愛おしき70年代アメリカ。ビミョーな風俗やアブナイ生き様が発散する空気は、60年代より重くて80年代より濃い。そんな時代を体現する、頭髪と体型がダサすぎる詐欺師クリスチャン・ベイルと、万華鏡のように多面的な相棒エイミー・アダムス。そして、2人を囮捜査に巻き込むクレイジーな捜査官ブラッドリー・クーパー。ベイルの妻役ジェニファー・ローレンスのキレまくる言動が周囲を掻き回す。
用意周到な作戦で騙したのが『アルゴ』ならば、本作は、いかがわしき面々が“いっちょカモる”ために右往左往しながら人間臭さを爆発させる。快進撃を続けるデヴィッド・O・ラッセルによる壊れた連中への讃歌は、愉快痛快奇々怪々!