グレート・ビューティー/追憶のローマ (2013):映画短評
グレート・ビューティー/追憶のローマ (2013)ライター3人の平均評価: 4
親父萌え
滝藤賢一がいくらブランドで武装しようが、持って生まれたダンディズムには敵わない。初老を迎えた男が、華やかな人生をふと振り返った時に感じる孤独や虚無感。くわえタバコも、けだるく酒を煽る姿まで様になるのは、どんな時でもファッションには妥協しないイタリア男のこだわりが成せる技だ。そんな主人公を演じるのは、P・ソレンティーノ監督作の常連トニ・セルヴィッロ。同じく彼らと長年コンビを組む撮影のルカ・ビガッツィを含め、3人が抱く人生美学の到達点がココにある。
それもこれも、ローマという舞台があってこそ。何千年も泰然と存在する街の中で、右往左往する人たち。人間ってちっぽけ。
饗宴から抜け出せない知識人の疲れたニヒリズム。
倦み疲れたディレッタントの憂愁を扱うことの多いソレンティーノの作劇と気取った構図には高邁ぶったところがあって好きになれないが、これは常連T.セルヴィッロの皮相なクソジジイっぷりも手伝ってなかなか面白い。とりわけ本作は『甘い生活』『ローマ』『インテルビスタ』といったフェリーニ映画の直截的影響が明白なだけにM.マストロヤンニのダンディズムと重ねみてしまうのも得なところ。特徴のないダンス音楽からプーランク、タヴナー、グレツキ…と、なかなか予想外にして絶妙な箇所で立ち現われる選曲もいい。ちなみに、同じフェリーニの匂いを漂わせつつ、奢侈と虚飾の外にいる人々を描く『ローマ環状線』も併せ観るべし。
生き難い現代の世俗に浸かり、声を荒げない大人のダンディズム
冒頭、セリーヌの『夜の果てへの旅』の一節が引用されるように、本作に底流するのはニヒリズムである。しかし甘美で、優雅で、どこか明るい。その印象は主人公である初老の業界人の、ダンディズムという名の必死の覚悟が支えている。
先行作『甘い生活』『フェリーニのローマ』が都市文化の頽廃に対する風刺の領域にあったとすれば、本作はもはや崩壊美の中の彷徨だ。死に近い空虚を引き受ける佇まいが濃密な色気を漂わせる。
本作は確かにローマについての映画だろうが、実は筆者が「追憶」したのは加藤和彦、今野雄二といった亡き先人達だ。ソレンティーノ監督は、現代が奪いつつある生き方の美学にこそレクイエムを捧げたのではないか。