ストラッター (2012):映画短評
ストラッター (2012)ライター2人の平均評価: 4
ダサいけど胸にイタい、ロッキン人生のひとコマ
“クヨクヨするな”と言われてもクヨクヨするのが人間の悲しいところで、みっとみないとわかっていても落ち込んだりグチッたり。本作はそんな人生のひとコマを切り取った愛すべきインディーズ・ムービーだ。
失恋とバンド解散のWパンチに見舞われたアマチュア・ミュージシャン。元カノの新しい恋人に“彼女に電話するな”と警告されたり、恋人選びについて母に説教されたりと、この主人公はかなり情けないのだが、情けないがゆえに笑えるし、また好感が持てる。これはドラマ的な盛り上げを避け、自然な流れに徹し物語を紡いだからこそ。ふと我に返ったとき、この“クヨクヨ”に身に覚えがあると感じるのは、筆者だけではないはずだ。このようなリアリティこそが愛すべきポイントである。
音楽ネタのエピソードも豊富で、ロック・ファンならその点も楽しめる。“グラム・パーソンズが生きていたら、どんな音楽をやっていたか?”というセリフを真剣に考えてみたり、ブレットやデイモン、ジャスティーンという主要キャラに付けられた名前にニヤリとしたり。『ガス・フード・ロジング』に続いてアンダース監督と組んだJ・マスシスのラフな劇中曲は、もちろん必聴。
J.マスシスやアリエル・ピンクも出るよ!
いまどきこんな映画を撮ってくれるなんて! モノクロの粗い映像とチャプターごとに区切った構成で、スケッチ風に綴られる男女群像。まさしくジム・ジャームッシュ『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、ガス・ヴァン・サント『マラノーチェ』、グレッグ・アラキ『途方に暮れる三人の夜』など、80年代の米インディペンデント映画風なガレージ感覚の再現だ。レコードマニアやシネフィルの衒学的な会話も何だか懐かしい。
監督のアリソン・アンダース(今回はカート・ヴォスと共同)は、90年代に『ガス・フード・ロジング』(筆者的には“裏『ギルバート・グレイプ』”)や『グレイス・オブ・マイ・ハート』(キャロル・キングをモデルとした音楽映画)といった秀作を撮っていたが、以降はテレビでのお仕事が続いていた。しかし60歳間近(!)になり、原点回帰した自主映画を放ってくれたのには嬉しくなってしまう。
劇中、L.A.のロックシーンで活躍する実在のバンドやミュージシャンも登場するが、有名どころではレコードショップにアリエル・ピンクが、楽器屋にJ.マスシス(本作のスコアも担当)が本人役で現れるのに感涙。いまと昔の若者に捧げたい一本。