陸軍登戸研究所 (2012):映画短評
陸軍登戸研究所 (2012)まさにもうひとつの『風立ちぬ』
3時間の長尺だが、敬遠せずに観ていただきたい。昨年(2012年)のキネマ旬報文化映画部門で第三位に選出されるなど、すでに高い評価を受けているドキュメンタリーだ。陸軍登戸研究所とは、太平洋戦争へと突入していく時代の中、川崎市生田に設立された兵器の極秘実験場。日本屈指の理系の頭脳が集結したそこでは、殺人光線や風船爆弾、偽札製造など、大量殺戮や諜略作戦のための凶悪な道具が日夜開発されていた。
劇中では1933年の陸軍技術本部PR用のアニメーション『怪力光線』などレア素材も紹介されるが、とにかくスリリングなのが高齢となった関係者たちの証言だ。メインインタビュアーとなる石原たみ(当時、日本映画学校の学生)の柔らかい“聞く力”によって、えげつないブラックジョークのような彼らの実体験、長らく隠蔽されていた歴史の真実が口にされる。
ちょうど今なら、本作と宮崎駿の『風立ちぬ』を重ね合わせる人は多いのではないか。言わば一介のサラリーマンとして、国家・軍部に翻弄された研究員や技術者たち。時代の抑圧が個人に強いる痛みをリアル(複合的)に伝えてくれる。こういう作品こそ、もっと敷居の低い印象が欲しいと思う。