ホットロード (2014):映画短評
ホットロード (2014)ライター5人の平均評価: 3
クールロード
セリフが、尾崎豊の歌声が、浮いている。“腐ったミカン“世代の激情を、低体温で描いた原作のイメージをそのまま映像で狙ったがムリだったのではないか。それでも原作が支持されたのは、読者が同時代を生きていたから。その時代背景をあやふやにし、時代の閉塞感や大人社会への反抗を朴訥としたセリフでつぶやかれても、ヒリヒリするような心の痛みは響いてこない。
そもそも宣伝資料で暴走族と記すことをせず、゛不良グループ゛など曖昧な言葉で誤魔化すくらいなら企画に手を出すべきではなかったのでは? 大きな責任を背負って主演に立った能年玲奈に対して、支えるべき周囲の大人が根性なしなら可哀想だ。
「今、何故これを?」感からは逃れられないが。
原作者が『カラスの親指』を観てこの役を認めた、というのがよく判る能年ちゃんだ。あの国民的笑顔を封印、しかし目がくるくるとうつろい、無表情のなかにも感情を語りまくるのは流石である(ちょっと北三陸なまりが残ってる気もするが…)。しかし映画自体はなんだかつるっとした感触で引っかかりのない出来。セルフィッシュなことに無自覚な母(木村佳乃)との葛藤や、三木孝浩らしい映像と光の美しさはあるが、物語は平板で時代の描写はしごく中途半端だ。まあ、80年代の暴走族を能年ちゃんや登坂広臣(この相手役のセックスアピールが男の目からはさっぱり受け取れないのも難)であまり忠実に再現されても困ってしまうのだが。
乱反射する能年玲奈から陰りを引き出す、端正なアイドル映画
堅実なアプローチによる端正な仕上がりだ。原作の80年代という時代性を殊更に強調せず、傷つきやすい思春期の普遍的な叙情詩として描き出す三木孝浩の戦略は奏効し、生まれながらにしてクラシカルな装いをまとっている。“大人未満”=黎明を表すブルーを基調とした色彩設計は、寡黙なヒロインの心象をも表し、作品に品格を与えた。何より、ありのままの能年玲奈の瞳に肉薄する大写しがスリリング。あえて彼女の無表情を紡ぐことで乱反射する内面がきらめき、憂いや陰りを引き出す演出が見事だ。異世界に戸惑い揺らぐイノセンスのゆくえを見守らせる力がある。オーラを放つ同時代の存在を、より一層輝かせる正統派アイドル映画として誠実だ。
程よいノスタルジーで普遍的な青春を浮き彫りにする
個人的に中学時代からコミックを殆ど読まなくなったため、原作はタイトルしか知らず。なので、どれほど忠実に再現されているのかは分からないが、’80年代という時代設定を過剰に演出することなく、ほのかなノスタルジーを漂わせつつ、繊細な筆致で普遍的な青春模様を浮かび上がらせていく、そのさりげない甘酸っぱさと瑞々しさが魅力だ。
若者にとって青春は永遠のように感じられ、自分たちの世界が絶対的な全てだが、しかしやがて、それがいかに儚くちっぽけなものなのかを思い知る。そんなほろ苦い現実もしっかり描かれているところが好印象。可憐な純粋さの中に強烈な反骨精神を秘めたヒロインを演じる能年玲奈がまた素晴らしい。
やっぱり気になるミズタクの影
ありえない設定の『陽だまりの彼女』をアリにしてしまった三木孝浩監督だけに、冒頭のナレーションから、企画が発表されたときの地雷臭を一蹴。得意の繊細な演出と美しいライティングで、男子が受け入れにくい線が細すぎる原作の世界観をよみがえらせた。
しかも、十分にダサくなる時代設定(80年代半ば)や名ゼリフなどを押さえながら、しっかり能年玲奈と登坂広臣のアイドル映画に仕上げているからスゴい。また、主人公2人の成長を見守る脇役陣の好演が光りまくっている点からは、『僕等がいた』に近いものを感じる。それにしても、春山の母役が松田美由紀、宏子役が太田莉菜であることで、ミズタクの存在を匂わせるのは狙いなのか?