祭の馬 (2013):映画短評
祭の馬 (2013)寓話の味に満ちた“3.11”ドキュメンタリー
「チンチン病気になっちゃったな」――ただでさえでっかい男性器が、さらに傷で腫れあがった元・競走馬。福島第一原発の事故後、警戒区域内にしばらく放置されていた馬の中の一頭だ。もちろん病気は偶然。だがこの映画は、滑稽に肥大したペニスの形状を原発3号機から上がったキノコ雲とイメージを重ねてみせる。
おそらく“3.11”関連の映画で最も優れたものの一本『相馬看花 第一部・奪われた土地の記憶』に続く第二部『祭の馬』で、監督の松林要樹が取ったのは意外なアプローチだ。レースで全く勝てなかったダメ競走馬が、食肉用として南相馬市に送られ、未曽有の事故に遭う。しかし奇跡的に生き延び、一方でなぜかチンチンが腫れる。そして被爆馬の殺処分から逃れ、神事に出場することに。ここで映し出されるのは、ブラックジョークのような現実に生きる馬=「存在」の悲喜劇である。数奇な運命に翻弄される者の姿が、よく対象化されて我々の目の前に差し出される。
ジョージ・オーウェルはなぜ『動物農場』で擬人化の手法を採用したか――そんな基本的なことを考え直してしまった。本作はドキュメンタリーだが、優れた風刺作家が描く寓話の味に満ちている。