サケボム (2013):映画短評
サケボム (2013)ライター3人の平均評価: 3.7
米国在住サキノ監督にしか描けない世界がある
本作を観ながら以前、仏留学した友人に言われた言葉を噛み締めていた。留学時代を支えてくれて元彼が忘れらないと嘆く彼女をたしなめたら「海外在住経験のない人には私の気持ちは分からない」と。人種差別に偏見、孤独…。本作には海外在住のアジア人が味わっている苦悩と葛藤がウィットに富んだ会話で綴られていた。友人の心情をようやく察すると同時に、止むことのない戦争やヘイトスピーチにも通じる世界の縮図を見せられているかのようだ。
ただ主人公のセバスチャンが典型的なアジア人のルックス+ひねくれ者で、彼を受け入れるのに相当時間が…。その偏見をまず拭えなかった筆者は、まだまだ子供だなと猛省。
サケとビールは混じりあえるのか。
異文化/異人種が衝突しつつ旅をするロード・ムーヴィはいくつかあるが、これは日本人&日系アメリカ人の男同志という組み合わせ。とりわけユニークなのはコンプレックスがネジれにネジれた後者だ。彼のブログはアジア人への誤解を糺すつもりが、彼自身のアジア人への無知や過剰な被差別意識、身についてしまったへつらい根性、そんな自分への卑下などで歪んでいる。また彼らと関わる女性たち(みんな可愛い)も多様で、メキシコ系のコスプレイヤーは日本人に憧れを抱いて近づくし、白人女性は純粋にアジア人のアレ目当て。そこでアメリカンコメディのように「とにかくヤれりゃあいい!」とはならず躊躇っちゃうのもまたアジア的特性なのかな。
アジア系アメリカ人の“今”を等身大に描く
基本路線は異文化交流。田舎者の日本人青年ナオトが元カノを探してL.A.へと渡米し、現地在住の親戚など様々な人々との出会いを通じて成長していく。
と同時に、本作はアジア系アメリカ人の“今”を等身大に映し出した作品でもある。中国&韓国を中心にアジア系の影響力が増す米国社会だが、それでもなお彼らに対するステレオタイプは根強い。しかも、同じアジア系同士でも複雑な事情がある。主人公の従兄弟で皮肉屋のセバスチャンが発する自虐的な毒舌ジョークが鋭い。
純朴なナオトを演じる濱田岳も愛らしく、英語のセリフも堂々としたもの。物語の行き着く先は予想通りだが、登場人物や社会背景の丁寧な描き込みは功を奏している。