さよなら歌舞伎町 (2014):映画短評
さよなら歌舞伎町 (2014)ライター3人の平均評価: 4
猥雑だけど真っ正直さが爽やかなセックス群像劇。
正直言って廣木映画が苦痛になって久しい僕だがこれはイイ。脚本の荒井晴彦、中野太ともども、その原点であるピンク映画(と新宿という土地)に立ち返り、無意味な長回しもなくサクサク進む風俗映画。しかも彼らには珍しい「グランド(ラブ)ホテル形式」の群像劇なのだ。学費稼ぎでAVに出る被災家族の娘・樋井明日香&純愛家出娘・我妻三輪子の元アイドル勢も、署内不倫の女刑事・河井青葉も(ガラス張りシャワールームにおっぱい押しつけられて…なんて久々に観る濡れ場)、あの『メビウス』女優とは思えぬほど可愛いイ・ウンウもみんな身体を張った好演だが、枕営業はするものの清新な前田敦子がさすがの存在感で最後をかっさらうのである。
THE有頂天ラブホテル
作り手がピンク版『グランド・ホテル』を意識したことで、アダルトな『THE有頂天ホテル』という観方もできる本作。あまりに出来すぎなエピソードもあるが、最初はどうかと思う松重豊と南果歩のエピソードが引っ張ってくれる。それにより、苦痛を感じさせる近年の廣木隆一監督作では観やすく、ラストの清々しさも含め、『東京ゴミ女』以来といえるほどの仕上がり。クライマックスの染谷将太の壊れ具合も素敵だが、あえて枕営業するミュージシャン役に挑んだ前田敦子のほか、我妻三輪子(ex.9nine)、樋井明日香(ex. HINOIチーム)、元アイドルの女優魂も見どころ。しかも、完全に大穴だった樋井が勝利という結果も素敵すぎ。
名タッグの新宿史観が光るグランド・ラブホテル群像劇
寺島しのぶ主演で傑作『ヴァイブレータ』『やわらかい生活』を撮った廣木隆一(監督)×荒井晴彦(脚本)の名タッグ。今回はメインを染谷将太×前田敦子に据え、青春群像劇に近い瑞々しさ。同棲中のアパートの場面で始める処など荒井のデビュー作『新宿乱れ街 いくまで待って』(77年)と重なったが、本作の試みは新宿というトポスの中でロマンポルノと現在の空気を緩やかに結ぶ事にあるのではないか。
あっちゃんが下田逸郎の曲を弾き語りするなど、ベテランと若手のコラボの妙味が基調だが、肝となる美点は街を見つめる視点自体に歴史の層が宿っているところ。また震災の影は、廣木の『RIVER』から繋がる事も忘れてはいけない。