チェイス! (2013):映画短評
チェイス! (2013)ライター4人の平均評価: 3.8
VFXはボリウッドの無茶を実現するためにある
『きっと、うまくいく』のアーミル・カーンが、勢いそのままに米国上陸。アメコミ頼りのハリウッドに挑戦状も叩きつける。
『スパイダーマン』も驚愕の空中散歩をバイクでやってのけ、マイケル・ベイも嫉妬する?パトカー大量破壊を街中で実行。ボリウッドが、VFXという武器を手に入れればここまでオモロイ事ができるんやで!と猛烈にアピール。さらに主人公が数々の離れ業をやってのけるのも、サーカスのトリックスターだからという設定で片付けてしまう大胆さが笑いをも誘う。
だが、すべてをアクションを裏付けするアーミルのマッチョボディを見よ。娯楽に賭ける本物のスターが堂々真ん中にいるからこそ、151分だが飽きないのだ。
インド映画のパワーとクオリティを実感させる快作
もともと面白ければ何でもアリの、エンタメ性が極めて高いインド映画だが、ここ最近の技術的な進歩や演出の洗練には目を見張るものがある。アメリカでの本格ロケを敢行した本作もまた、パワーだけでなくクオリティ的にもハリウッド映画の向こうを張るに十分な現代インド映画の底力を見せつけてくれる好例だ。
シカゴの街を縦横無尽に駆け回るアクションのスケール、インド映画お得意のミュージカルシーンのダイナミズム、そして復讐をめぐるモラルのせめぎあいを描いたストーリー。欲張りでありながらも均衡の取れたバランス感覚は見事。ただ、国際市場を意識しすぎたせいかインド映画ならではの個性が若干薄れてしまった印象は受ける。
いやもうとにかくアーミル・カーン、アーミル・カーン!
まあ、ありがちなパターンではあるのだけれど、徹頭徹尾バイクにこだわったアクション・シーンのモノ凄さ以上にモノ凄いのが、名優アーミル・カーンの演技力。それ言っちゃえばあまり楽しくないネタバレになるので書かないが、インド映画常套のインターミッション(今回のヴァージョンではカットされてるけど)を境に語り手が変わるという趣向がおそろしく活きていて、それ以降はもうアーミルのカリスマ性をただただ堪能する映画になっている。長いけれどさほど面白くもないソロの楽曲シーン以外、前半の扱いが不遇なヒロインのカトリーナ・カイフも、後半には甘くて真情あふれるデート・シーンが用意され素敵だ。
“何でもアリ”、中でもバイク・アクションがミソ
楽しければ何でもアリのインド製エンタメ映画の中でも、とりわけアクションを強調している点がミソ。タイトルどおりの壮絶チェイスが大きな見どころと言える。
パトカー軍団の猛追をかわすバイクのアクロバティックな疾走は言うまでもなくスリリング。危機に応じてバイクが水上仕様になったりするガジェット感覚も面白い。主人公の義賊的キャラの好感度も手伝い、アクションはまさしく痛快だ。
後半はドラマやラブコメ色が強くなりアクションは失速するが、“何でもアリ”を理解していればさほど減点にはならないだろう。インド公開版とは異なる編集ゆえに歌と踊りは減らされているが、それでもミュージカルの見せ場は絢爛でアガる。