ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース (2014):映画短評
ニック・ケイヴ/20,000デイズ・オン・アース (2014)ライター3人の平均評価: 4
きっとこれが、今、この時のニック・ケイヴ
このドキュメンタリーは「ニック・ケイヴとは何か」ではなく「現在のニック・ケイヴ」を描く。子供時代や80年代の彼は、現在のケイヴが当時の写真を見て語るという形で描かれ、量も少ない。脚本にはケイヴ自身が参加しているので、本作は現在の彼自身による自画像だともいえそうだ。が、意外なことにその自画像は、勤勉で真面目。静かに日々精進を重ねる。
際立つのは、彼が歌っているときの映像だ。圧巻なのは最後の曲。同じ曲の過去から現在までのステージが、繋げて1曲に編集され、ひとつのステージのように見える。ケイヴは小説も書き、「欲望のバージニア」の脚本も書くが、彼の本質はミュージシャンだとこの映画は宣言している。
クリエイティビティを刺激する快作
ニック・ケイヴというカリスマ的なアーティストが存在することを、どれだけの人が知っているのかはわからない。しかし、このような異才がいるとい事実を踏まえてさえいれば、本作は刺激的な一作となるだろう。
ケイヴの人生をたどるドキュメンタリーと言うより、彼の思想や姿勢を探索し、観客にシンクロさせる野心的な作品。自身の名言や表現力に富む語気に誘われ、彼の頭の中の世界へと引き込む。
ケイヴの意志に沿った演出もあるがドキュメンタリーではない以上、それは些細な問題。観客に「何かクリエイティブなことをやってみよう」と思わせることに成功しているという点で意義のある快作。ファンならずとも必見だ。
「ニック・ケイヴの穴」に入ってみる97分
20世紀の文豪のようにPCではなくタイプライターを書斎で打ちまくるN・ケイヴ。最初はおナルな匂いもするが、饒舌なモノローグに加え精神分析医や友人との対話など、やがて多声的に構成された彼の「自分語り」に惹き込まれていく。これはアーティストの創作の裏側、虚実の皮膜に迫るものとして傑出したシネエッセイだ。
何より魅力なのはシリアス一辺倒ではない事。「昔のアルバムを聴くと指摘して欲しかったと思うよ。曲が長すぎるって」など率直な言葉も聞ける(笑)。本作のユーモアは編集を『スコット・ピルグリム~』等のジョナサン・エイモスが担当したことも大きいはず。中でも白眉は車中のシーン。カイリー・ミノーグも出るよ!