ディオールと私 (2014):映画短評
ディオールと私 (2014)ライター2人の平均評価: 4
一生、縁がないオートクチュールの世界をかいま見る喜び!
鬼才ジョン・ガリアーノの後釜としてディオールを率い、ファースト・コレクションを大成功させたラフ・シモンズ。その華麗な舞台の裏側にカメラを入れた勇気に驚くし、アトリエで美しいドレスが出来上がっていく過程からしてスリリングだ。新参者ボスと誇り高きスタッフとの軋轢も生まれるし、オートクチュールの掟を知らないラフの戸惑いも伝わるが、絶対に美学を曲げない姿は神々しい。生涯縁がないドレスだけど、出来上がる過程を疑似体験できるのも実に楽しい。そして印象に残ったのは、毎シーズン5000万円以上の最新ファッションを購入する顧客のためにクチュリエが出張お直しするという事実。リッチだわ。
表現の「壇上に立つ」ということ。
近年多数公開されているファッション業界ドキュメンタリーの中でも“シンプル・イズ・ベスト”な一本。2012年のパリコレに向けて老舗ディオールの新ディレクターに大抜擢されたラフ・シモンズが、初めて百戦錬磨の職人達を率いる姿が映される。彼はベルギー出身で、学校では工業デザインを勉強しただけという在野の才能だ。
例えばこの現場を、自主映画出身の新人監督が、いきなりベテランのスタッフを統率しなければならない商業映画デビューに置き換えて見ることも可能だろう。神経質で内向的な性格らしく、マスコミ慣れもしていない”選ばれし者”の不安と恍惚。彼が大きな喝采の中に姿を現すところでは胸が熱くなってしまった。