怒り (2016):映画短評
怒り (2016)ライター2人の平均評価: 5
へヴィ級の仕上がりに徹底的に打ちのめされる
2016年日本映画界の特色として、クオリティの高い犯罪ドラマの連発が挙げられるが、さすがは『悪人』原作×監督コンビ。その極め付きというべきへヴィ級の仕上がりで、徹底的に打ちのめされる。冒頭、歌舞伎町の風俗店で発見される宮﨑あおいの表情から、ただならぬ雰囲気を醸し出し、その後もぶつかり合う俳優たちの意地とプライド。オーディションで役を勝ち取った広瀬すずから、わずかな出演シーンの高畑充希まで、まさに“全員主役”状態で、一秒たりとも目が離せない。もちろん、市橋達也事件をモデルにした真犯人探しというエンタメ性も秘めているが、東京・千葉・沖縄を舞台にした、3つの愛の物語として、心に深く刻まれること確実。
正真正銘のハイボルテージ、怪作に近い大傑作!
誰が犯人か?というミステリーよりも、事件に無関係な人々の愛の根幹があぶり出されていく様を注視した特異な構造。『悪人』チームの果敢な挑戦。李相日はアイヌの問題に触れた『許されざる者』に続き、米軍機の飛ぶ沖縄へも歩みを進めつつ、日本論を超えて世界を覆う“負の連鎖”を象徴化した。
“怒り”というプリズムを通してできる強烈で複雑な光と影を、すべて同時に映していく人間模様の熱いかたまり。場所・空間には生活の息遣いが宿り、風景を斬っても血が出そうな生々しさ。
坂本龍一のスコアは『レヴェナント』を受け継ぐ音響重視で、これもまた体感型と言っていい。ビッグネームの座組みに全く負けてない水澤紳吾の怪演も驚愕!