ピエロがお前を嘲笑う (2014):映画短評
ピエロがお前を嘲笑う (2014)ライター3人の平均評価: 3
確かにこれは上手いこと騙されます
指名手配中の天才ハッカーが警察へ出頭。空気のように目立たない地味な若者がいかにしてハッカー集団の仲間となり、殺人まで絡む大それた事件へ巻き込まれていったのかが語られる。
で、その主人公の証言に巧みな真実と嘘が隠されており、まんまと捜査官たちが騙され翻弄されていく…というのが本作の肝。どんでん返しに次ぐどんでん返しは若干過剰な気がしないでもないが、なるほど確かにこれは一杯食わされる。サイバー空間を電車の車内になぞらえたビジュアルも斬新で分かりやすい。
ただ、計算し尽くされたトリックで観客を騙すことに重点を置きすぎているせいか、見終わったあとの印象は驚くほど薄い。
トリックを見破る“ルール”はない
バラン・ボー・オダー監督の前作『23年の沈黙』は『ミスティック・リバー』を意識した作風だったが、今度は『ユージュアル・サスペクツ』を意識した主人公の供述から始まり、アンチヒーローと化した男の巻き込まれ型サスペンスに。とはいえ、原作モノということで静寂さと演技力が売りだった前作と異なり、テクノと細かいカット割で見せていく。この手法も観客にオチを読ませないテクニックかもしれないが、終盤にさりげなく映る“あの映画”のポスターもトリックのひとつであるように、見破ろうと思えば思うほど、“やられた!感”が強いはず。次回作となる『スリープレス・ナイト』のハリウッド・リメイクも違う手法で攻めてくるとみた。
総てを予測できるのは、かなりの達人
"予想外の展開をするぞ"と宣伝されているので、そう思って身構えて見てしまうが、そんな姿勢で見てもストーリーの語り口がおもしろい。指名手配中の天才ハッカーが警察に出頭し、これまでの出来事を語り出すが、「実際は何が起きたのか」が何度もひっくり返される。このジャンルに慣れた観客なら途中までは予測可能だろうが、それでも最後までは予測できないのではないだろうか。
もうひとつの魅力は映画のスピード感。細かいカット割りでアップめのビートをキープする、映画のスピードが心地よい。このリズムがエレクトロ系の音楽とシンクロして、本作を生んだドイツはやっぱりテクノの国だよなあと痛感。