蜜のあわれ (2016):映画短評
蜜のあわれ (2016)ライター3人の平均評価: 3.7
二階堂ふみじゃなければ、成り立たない企画
“脱げる条件”を優先し、新人女優を起用したら、ここまでポップでキッチュな作品にならなかったはず。明らかに二階堂ふみじゃなければ、成り立たない企画だ。か細い肢体と大粒な瞳で、室生犀星自身を投影していると言われる主人公のオヤジ心を弄ぶ小悪魔的魅力は、やっぱり平成の緑魔子。中盤から幽霊を演じる真木よう子が参戦し、「問題のあるレストラン」じゃ見られなかったの妖艶対決にクギ付け。高良健吾の芥川龍之介も、フィルムでの撮影も、森俊之の音楽も見事なスパイスになっており、ひと昔前なら『アメリ』のようにサブカル女子に熱狂的に支持されただろう。『無伴奏』に続き、口コミなどで、どんな結果が出るか楽しみな一本だ。
コケティッシュな二階堂ふみのエロスに悶絶!
小悪魔な少女に姿を変えた赤い金魚と、老境に差し掛かった作家の、微笑ましくも官能的な恋の戯れを描く。文豪・室生犀星が晩年に発表した同名小説を映画化した大人向けのファンタジーだ。
室生犀星といえば「あにいもうと」や「杏っ子」くらいしか知らなかったので、こんな大胆かつ前衛的なモチーフの作品を書いていたとは驚き。しかも、原作にはない盟友・芥川龍之介の幽霊を登場させることで、メタフィクション的な味付けを施しているところも面白い。
明確なストーリーがない点で好き嫌いは分かれるかもしれないが、なんとも思わせぶりな艶っぽいセリフの数々と、赤いドレスに身を包んだコケティッシュな二階堂ふみの魅力は悶絶もの!
和室で金魚とへなちょこダンス
老いて行き着く果てが、この映画ような、赤い金魚の形をしたエロスといっしょに、和室のしっとりとした畳の上で、へなちょこなダンスを踊るような境地であれば、それはまったく悪くない。スクリーンに映し出されるイメージの数々が、そんな思いに至らせてくれる。赤い金魚が少女形になった時に着ている赤い服の、金魚のようで古い西洋人形の衣装のようでもある形。天井の低い畳の部屋の、いつも戸が開け放たれている縁側から、静かに流れ込んでくる適度な湿り気を含んだ空気。夜の河に映る満開の桜。時代背景は室生犀星の原作と同じ昭和30年代、モチーフも古典的だが、映像の軽やかなリズムと濁りのないクリアな質感は、現在のものだ。