ヒトラー暗殺、13分の誤算 (2015):映画短評
ヒトラー暗殺、13分の誤算 (2015)ライター2人の平均評価: 3.5
一介の市民をテロ行為へと駆り立てたものとは?
第二次世界大戦前夜のドイツで実際に起きた、平凡な労働者ゲオルク・エルザーによるヒトラー暗殺未遂事件の顛末を描く。
ナチ政権下ドイツの暗澹たる日常を丁寧に織り込みつつ、あえなく逮捕されたゲオルクが本当に単独犯なのか否かを巡る激しい尋問を通じ、政治と無関係な一介の市民がテロ行為へと至った理由に迫る。真相を告白すればするほど、秘密警察から嘘つき呼ばわりされるのは実に皮肉。その滑稽なまでの盲目が国家の行く末を暗示する。
あえて主人公を英雄視することなく客観性を貫いた演出は、一歩間違えるとテロを肯定しかねない題材ゆえであろうが、そのため全体的に散漫な印象を受ける点は惜しまれる。
ゲオルク・エルザーの恋と革命
「臆病者で結構だ。暴力は解決にならない」――。そう喝破していた青年がやがて爆弾を作り、独裁者の転覆に人知れず王手をかけ、失敗する。“個人と歴史”の交わりを立体的に見せる巧みな構成だ。特にグッときたのは「青春映画」の匂い。道ならぬ恋と、ひとりぼっちの革命。その高揚と挫折が狂おしく迫る。
まだ開戦前の1930年代をメインにしている事も大きい。ナチスの不穏な足音にいち早く気づいていた青年の目を通し、時代や社会はいかに危険な方へじりじり向かっていくかをリアルに描いている。ヒルシュビーゲル監督作は出来不出来の差が大きいが、これは『ヒトラー~最期の12日間~』や『es』をも凌ぐ最高作ではないかと思う。