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裁かれるは善人のみ (2014):映画短評

裁かれるは善人のみ (2014)

2015年10月31日公開 140分

裁かれるは善人のみ
(C) 2014 Pyramide / LM

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

中山 治美

そこはかとなく東映臭

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 カンヌ国際映画祭脚本賞受賞とか、旧約聖書から着想を得ているとか、冠に身構えてしまいがち。だが、土地売買を巡るいざこざは万国共通。悪知恵の効く権力者が勝つ。しかも本作の場合、実はタイトルに偽りありで、DVに浮気にと善人と思われた奴にも問題アリ。外道たちによる醜い抗争。あぁ、懐かしき東映ヤクザ映画、いやVシネマでお馴染みの世界で、懐かしさすら感じる。腹黒市長は金子信雄か。
 荒涼としたロシアの風景が、またいい。どう見ても土地はあり余っており、なぜに一軒の小さいボロ屋を巡って愚かな争いを続けているのか。第2の主役とも言えるロケ地が、この不条理劇を際立たせている。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

モラルが通用しない社会になったら? 踏み絵のような人間ドラマ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

先祖代々の土地家屋を略奪しようとするヤクザな市長と自動車工コーリャの戦いを軸に“正義”が通用しないロシアの現状を憂えた監督のシニカルさにぐぅの音も出ない。公僕が公衆に奉仕せず、高邁なはずの聖職者や司法関係者も私利私欲で行動する社会においては、私たちが考えるモラルなんて無意味に思えるから困ったもの。しかも負のスパイラルにはまり込み、堕ちていくのが実直な市民だけという展開がまったくもって後味が悪い。プーチン政権下では正直は悪なのかもと思わせる。ちなみに原題『リバイアサン』とは旧約聖書のヨブ記に登場する魔獣のことだが、人生の皮肉さをズバリ言い当てた邦題のほうが個人的には素晴らしいと思う。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

詩的な映像美で描かれる希望なき現代ロシアの悲劇

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 理不尽な土地買収から家と家族を守ろうと抵抗する平凡な男が、背後で操る悪徳市長の悪事を暴こうとするも、その強大な権力によって容赦なく叩きのめされていく。
 もともとはアメリカで起きた事件をヒントに、舞台をロシアへと移した作品。しかし、政治家と警察と裁判所が共通の利益のために結託した腐敗の構造、拝金主義と事なかれ主義が横行する荒んだ世相はまさに現代ロシアそのもの。教会の偽善にまで大胆に踏み込んでいる辺りも要注目であろう。
 ほとんど希望の欠片もない話だが、しかし人間の滑稽な愚かさを皮肉ったユーモアが悲壮感を緩和し、ロシアの雄大な自然を捉えた映像が詩的でファンタジックな印象を残す。実に懐が深い。

この短評にはネタバレを含んでいます
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