オーバー・フェンス (2016):映画短評
オーバー・フェンス (2016)ライター2人の平均評価: 4
佐藤泰志三部作の最終章は切なくも優しい人間賛歌
「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」に続く佐藤泰志三部作の最終章に当たる本作だが、その趣きや味わいは前2作とだいぶ異なる。穏やかで繊細で、しかし前向きで力強い映画だ。
職業訓練学校に通う人生宙ぶらりんな人々。本音を隠して当たり障りなく日々をやり過ごす男。本音をむき出しにし過ぎて壊れかけている女。ありきたりな表層だけの人間関係の寂しさや脆さを、決して誇張することなく丁寧に描いていく。
人によって幸せの物差しは違う。誰にだって欠点や失敗はあるし、これが正解だという人生などない。自分も他者もひっくるめて、その多様性を受容した先に見えてくるささやかな幸福こそが、本作の核を成しているように思う。
良くも悪くも、三部作でいちばん観やすい
やはり、『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』との比較になるが、今回はどこかポジティブさを感じる原作だったり、ときにファンタジー要素をブッ込んでくる山下敦弘監督による観やすさもあってか、なんだかんだで心地良い。近藤龍人による撮影も、前2作とは違った印象を受ける。バツイチ四十男役のオダギリジョーと、明らかに面倒臭いキャバ嬢役の蒼井優は、もちろん期待通りの芝居を魅せてくれる。そんななか、想定外だったのが松田翔太。今、このポジションの難役を受け、モノにするあたり、俳優として大きな転機となったのは間違いない。それしても、水野美紀の影がちらつくオダジョーと北村有起哉の共演シーンはドキドキものだ。