アバウト・レイ 16歳の決断 (2015):映画短評
アバウト・レイ 16歳の決断 (2015)ライター3人の平均評価: 4
トランスジェンダー役に挑むエル・ファニングの美少年ぶりは必見
女性から男性への性別適合手術を望む「少年」レイとその家族にまつわる映画だが、必ずしもLGBTの問題ばかりにフォーカスしているわけではないところがいい。もちろん、エル・ファニングの見事な美少年ぶりも必見だ。
まだ16歳のレイの決断から広がる波紋によって、家族間に様々な迷いや葛藤が生じていくわけだが、例えばこれを子供の受験問題や就職問題などに置き換えてみれば、本作の持つ根本的な普遍性が見えてくることだろう。
子供の成長や進路にまつわる家族の葛藤はどこの家庭でも似たようなもの。大切なのは当人の幸せであって、それに比べれば性別の変化など実は些細なことに過ぎないことを思い知らされる。
根底にあるのは誰もが直面する家族の物語
身体的にも男性として生きることを決意した16歳のレイよりも、むしろその周囲の人々の感情の揺れ動きを描く物語。レイ自身は16歳らしい熱い思いで決心し、決断した後は迷いがない。一方、彼女の母親や祖母は、まだ16歳の人間が、今後の人生を左右する大きな決断をしてしまうことを認めるべきなのか、引き止めるべきなのか、あれこれ悩まずにはいられない。しかしそれはみな、レイのためを思ってのこと。家族はみなレイの決断を頭から否定したりはしない。そんな理想的な家族の関係が描かれていく。性意識に関するドラマの根底に、家族とは何か、家族の一員であるということはどういうことか、そんな誰もが考えさせられる物語がある。
すぐそこにいる、生きた人間のドラマとして秀逸
レズビアンの祖母、バツイチの母、そしてトランスジェンダーの娘。奇抜な女系家族ではあるが、その特殊性を強調せず、隣に住んでいてもおかしくない親近感とともに描いている点が、まずイイ。
三世代の女性像はそれぞれにチャーミングで、笑えもするし共感も抱ける。家族の絆をサラリと表現するセンスのよさも抜群。『リトル・ミス・サンシャイン』のスタッフらしい素晴らしい仕事ぶりだ。
何より、トランスジェンダーというデリケートな題材を自然体でとらえている点が良い。娘は悲しい事実に直面することこそあれ、決してかわいそうな人ではない。人間は強くはないけれど、そんなに弱くもない……そんな視点が活きた秀作だ。