獣は月夜に夢を見る (2014):映画短評
獣は月夜に夢を見る (2014)ライター2人の平均評価: 3
美しくも哀しい北欧産アート系ホラー
海岸沿いの小さな漁村、謎の病に冒された母親、多くを語らない父親、孤独で内気な娘マリー、そしてそんな一家を遠巻きに警戒する村人たち。やがて体に不可解な変調をきたし始めたマリーは、恐ろしくも哀しい己の正体を知ることになる。
「ぼくのエリ 200歳の少女」を彷彿とさせる北欧産アート系ホラー。“獣”へと変貌していくヒロインの不安や葛藤を、今まさに大人になろうとする少女特有の心理的メタファーとして描く手法に目新しさはないものの、北欧映画ならではの荒涼としたメランコリックな世界観が好きな人にはオススメ。あくまでも雰囲気重視の傾向が強いので、ホラー映画ファン向けではないかも。
北欧の小さな町でいくつもの境界線が失われていく
空と地の境界は、光の中に溶けて判別できない。その空の下で、人々の生活と、古くからの伝説の境界が失われていく。家族の秘密にまつわる物語が、幻想譚との境界を失っていく。そして、19歳の少女がある境界線を乗り越える時、その姿が美しい。こういうものには魅了されてしまってもしょうがないと思わせる、説得力を持っている。
黄昏のまま時が停滞してしまったかのような、北欧の海辺近くの小さな町。光は淡く柔らかで、色は明度が高く彩度が低い。この幻想絵画のような世界を作り出した監督・脚本・原案のアーンビーの、「奇跡の海」「ダンサー・イン・ザ・ダーク」の美術アシスタント出身という経歴に納得だ。