3月のライオン 後編 (2017):映画短評
3月のライオン 後編 (2017)ライター3人の平均評価: 4.7
“なで肩の棋聖”存在感なき存在・加瀬亮が体現する奥深さ
後編の見どころは、より濃密になる人間ドラマ。零を迎え入れる川本家との交流が、人としての成長を描く上で効いてくる。そして何より、この映画の風格を決定づけたのは、ラスボスとしての宗谷名人=加瀬亮だ。場の空気と一体化したような、一切の虚飾を削ぎ落とした、存在感なき存在。“なで肩の棋聖”加瀬が醸し出す内宇宙が、将棋と本作の奥深さを無言のうちに体現する。主人公だけではなく誰もがもがき苦しんでいる。孤独・精進・自我の追求…。今の日本映画を支える観客の中心層にとっては、目を背けたいもののオンパレードかもしれない。それでも、表情を味わい、行間を読み、自己を高めるためにこそ映画は在るのだ、と本作は抗っている。
2部作の真価を見せつける入魂の後編
将棋に人生を賭けた高校生の苦悩と葛藤を描く2部作。主人公・零が孤独に苛まれながらも棋士として頭角を現していく前編が壮大な序章だとすると、他者の痛みを知ることで少年から若者へと大きく成長する今回の後編にこそ、映画『3月のライオン』の魂が込められていると言えよう。
人間には誰しも胸の内に秘めた傷がある、どの家庭にも外からは見えない事情がある。自分の不幸しか頭になかった主人公の目覚めは青春ドラマの定石だが、繊細で豊かで奥行きのある人間ドラマがすこぶる説得力を与える。それでも人生は続く、戦いは続くを地で行くドラマチックな幕切れも見事。高橋一生演じる高校教師も、この後編で特にその存在感を発揮する。
重厚感ある人間ドラマとしての見応え。
狙いすぎた対局シーンが多かった『前編』に比べて、零と川本家との絡みが多くなったことで、一段とホームドラマ色が強まった『後編』。主人公・零の人間的な成長物語を描くうえでのエピソードの詰め込み感や、川本家三姉妹の父・誠二郎を取り巻く描写など、原作ファンとしては納得いかない点があるのは否めない。とはいえ、連載中である原作の雰囲気を壊さず、エピソードの回収と思われる脚色もみられるなど、重厚感ある人間ドラマとしての見応えは十分アリ。『後編』になると息切れ、パワーダウンする2部作がほとんどのなか、かなり大健闘したといえると同時に、大友啓史監督、神木隆之介の代表作になったといえるだろう。