ラサへの歩き方~祈りの2400km (2015):映画短評
ラサへの歩き方~祈りの2400km (2015)
ライター3人の平均評価: 4.3
聖地巡礼の旅を通じて描く人生賛歌
中国第6世代の中でも、誰もが笑って泣ける人間ドラマを得意とするチャン・ヤン監督だが、これまでになく実験的な作風と政府へのメッセージ性を持つ本作で、一気に突き抜けた。とにかく全身を使い、祈りながら前に進む“五体投地”の光景が衝撃的。聖地巡礼と聞き、お遍路やご当地アニメが浮かぶ我々には苦行にしか見えないかもしれないが、劇中で自身を演じる巡礼者は、事故に遭えばムチャしないし、金欠になれば働くだけ。そのマイペースさは、忘れかけた本来の人間の在り方を思い出させてくれる。しかも、1年の旅で、新たな命が誕生し、少女は成長、青年は恋し、老人はこの世を去る。恐ろしいほどに、人生が凝縮された一篇でもある。
巡礼中に出産!死! コレ、まさに人生
まず旅の壮大さに圧倒される。
子供から妊婦、老人までもが揃ってテント暮らしをしつつ、約1年間かけてひたすら歩く。
額にコブが出来てしまうという”五体投地”は鍛錬であり、おまけに事故や出産に死にも遭遇し、人生そのものを短期間で体感。
煩悩まみれで生きている人間は、こうして定期的に苦行をしないと浄化できないのだろう。
本作は実際に現地に住む人たちを起用し、彼らの人生を役柄に投影させたドキュドラマだ。
チャン・ヤン監督は『胡同のひまわり』などで知られるが、良作だがあざとさが見え隠れしていたのも事実。
しかし今回は、大自然や出演者に委ねた。
巡礼で誰よりも心がシンプルになったのは、監督かもしれない。
溜息が漏れるほど美しいチベット版「木靴の樹」
五体投地の徒歩で聖地巡礼へ向かうチベットの村人たちの姿を、四季折々の大自然を背景に映し出していく。出演するのは本物のチベットの村人たち。監督は大まかなプロットだけを設定し、あとは自分自身を演じる村人たちが自分の言葉でセリフを喋る。エルマンノ・オルミの「木靴の樹」と似たような手法で撮られたセミドキュメンタリーだ。
思わず溜息が漏れるほどに美しく幻想的な映像、自給自足の素朴で穏やかなチベット人の暮らし、そして自分よりも他者の幸せを祈り、全ての生き物の命を尊ぶ彼らの価値観。そんな村人たちの過酷な旅を慈しむように見つめる監督の眼差しは限りなく優しい。まさに心を洗われるような傑作だ。