幸せなひとりぼっち (2015):映画短評
幸せなひとりぼっち (2015)ライター3人の平均評価: 4.7
世に抗って生きるのにはワケがある
長い物に巻かれて生きるのはラクだ。
だからと言って世間に楯突くと、途端に偏屈者と白い目で見られる。
本作の主人公はそんな人物。
理不尽な事に、ただ「おかしい」と声をあげていただけなのに。
だが彼が生きる糧を失い自殺を試みようとすると、
長年の友人たちや新たなご近所さん、そして猫が邪魔をする。
生きろ!と言わんばかりに。
そう書くとありがちな人生賛歌と思われそうだが、
あの世に行きかける度に主人公が人生を回想し、怒りの源が判明していく展開がシュールで、不謹慎と思いつつ笑っちゃう。
鑑賞後はきっと、自分が忌み嫌っていた相手にも想像も及ばぬ人生があるのだと、周囲を見る目が少し変わるかもしれない。
偏屈じいさんのハートは実は、熱かった!
花束の割引クーポンに関して店員に文句を付ける冒頭、「偏屈じいさんにどんな物語があるの?」とどんよりしたけど、それも一瞬。移民女性パルヴァネ一家をはじめとするご近所との関わりと主人公オーヴェの回想を織り交ぜる構成によって、彼の期し方と魅力がどんどん掘り起こされていく。口下手だけど愛してくれた父親との関係や全身全霊を賭けて愛し抜いた亡妻との幸せな時間がオーヴェという人間を作ったのだと納得。特に妻との関係にはぐっときた。人間ってほんと、表面的な付き合いでは分かり合えない部分が多いのだ。頑な心をほぐしてくれる存在があっての話で、人間はやはり一人では生きられないと実感した。
不器用な偏屈ジイさんに大爆笑しながら大号泣させられる
クソ真面目で頑固で曲がったことが大嫌い。ちょっとでもご近所ルールを破ろうものなら、目を吊り上げて怒鳴り込んでくる。そんな偏屈ジイさんオーヴェと隣人たちの交流をブラックユーモアたっぷりに描くスウェーデン映画なのだが、これがもうね、中盤辺りから涙腺緩みっぱなし。大爆笑しながら大号泣するという、世にも稀有な体験をさせてくれる大傑作なのですよ。
無骨だけど優しい父親の愛情を一身に受けた幼き日々、共に手を携え人生の苦難を必死に乗り越えた妻との結婚生活。まさしく人に歴史あり。今は亡き愛する家族との大切な想い出に囚われるあまり心を閉ざしたオーヴェ。その哀しみが胸に鋭く突き刺さる。