夜明け告げるルーのうた (2017):映画短評
夜明け告げるルーのうた (2017)ライター3人の平均評価: 4.3
快感表現を追求しつつ心の解放や世界の救済をもたらす王道アニメ
田舎町で心を閉ざしたティーンエイジャー。母性を欠いた環境。音楽だけが心の友。そこへ現れる人魚の幼女。やって来るカタストロフ――。ジブリを思わせる心の解放や世界の救済といった王道のモチーフをちりばめ、疾走や躍動を追求するアニメならではの<画×音>のコラボが心地よい。とりわけダンスシーンの表現には息を呑む。そして「水」を中心とするゆらめきの表現に長けたフラッシュアニメーションを、長編映画に全編にわたって活用した実験精神は、観る者の心もなめらかにしてくれる。湯浅政明監督の新境地は、3.11の記憶を甦らせカタルシスを与えるという意味において、『君の名は。』とも同列に語られるべきだろう。
既視感だけでは終わらないエモさ。
予想通り、人魚姫ベースの設定は『崖の上のポニョ』であり、その後の見世物と化してしまう展開は『河童のクゥと夏休み』。さらにクライマックスの水門シーンは『パンダコパンダ』。だが、そんな既視感だけで終わらないのが天才・湯浅政明監督。音楽に造詣のある監督らしい「バンドやろうぜ!」系の青春物語であるゆえ、音楽と映像のシンクロ感はハンパない。それにより、湯浅美学”といえる疾走シーンのエモさは倍増。ただ、“ファンが知人に勧められる湯浅作品”を目指したこともあってか、これまでの作品に比べ、狂気や毒の薄さは否定できない。よって、前作『夜は短し歩けよ乙女』の仕上がりには及ばないが、これまでが異常だったともとれる。
孤独な少年と人魚少女の友情が社会の同調圧力をふっ飛ばす
先月公開の『夜は短し歩けよ乙女』から殆ど時を経ずして、これだけの傑作をものにしてしまうとは、いやはや、恐れ入るしかないと言わざるを得ない湯浅政明監督の最新作。一見すると今時の青春アニメっぽい作画タッチだが、そこはご安心あれ、湯浅監督だからこそのシュールでポップでぶっ飛んだ要素も満載だ。
閉塞感に満ちた田舎の漁師町に暮らす孤独な少年が、天真爛漫な人魚少女との交流を通じて自我に目覚めていく。自分の人生は自分で決める、好きなことをやって何が悪い。この同調圧力なんてクソ喰らえ!という精神こそ、今の日本人に最も必要とされているものではないか。そういう意味でも、是非とも若い人に見てもらいたい作品だ。