ストロングマン (2015):映画短評
ストロングマン (2015)ライター2人の平均評価: 3.5
他人と比べないと気が済まない男たちの哀しさよ
マイケル・カコヤニスやテオ・アンゲロプロスなど世界の巨匠を輩出する一方、ニコ・マストラキスの『ハード・アブノーマル』のようにカルトな怪作も存在するギリシャ映画。ヨルゴス・ランティモス監督の前作『ロブスター』もまた奇妙な映画だったが、あれに比べるとこちらの最新作は比較的分かりやすい。
豪華ボートで暇を持て余したオッサンたちが、男の意地とプライドをかけ、腕力とか勇気とかチンコの大きさとかを競っていく。他人と比べることでしか自己の尊厳を保てない男たちの哀しさよ…といったところか。一昔前の世界的なグリーク・ポップス・ブームにハマった身としては、大物アイドル歌手サキス・ルヴァースの出演は嬉しい驚き。
こりゃ「男」そのものの戯画ですわ
例えば『愚行録』の苛烈な女性同士のマウンティングに比べると、本作におけるオッサン6人組の“男前ポイントレース”はものすご~く子供じみている。確かに男同士の競争意識ってくだらない見栄や意地の張り合いであることが多い。『最後の晩餐』にしろ『テレクラキャノンボール』にしろ。それが微笑ましい稚気として輝く時もあれば、やっかいなマッチョイズムとして場を抑圧する場合もあるのだろう。
また、このエーゲ海の船上で繰り広げられる呑気な戦場を、ツァンガリ監督はギリシャ危機の比喩でもあると語っている。現実そっちのけで遊戯にムキになる態度は国を滅ぼす頽廃にもなるという……。そう考えると風刺力はメガトン級だ(笑)。