ソウル・ステーション/パンデミック (2016):映画短評
ソウル・ステーション/パンデミック (2016)ライター3人の平均評価: 3.3
まるで別人が撮ったような前日譚
『新感染』の冒頭で、列車に乗り込んできたシム・ウギョン演じる“あやしい彼女”がヒロインの前日譚アニメ(もちろん、ウギョンが声の出演)。とはいえ、極上のエンタメだった『新感染』とは対照的に、ヒモ同然のゲス男から逃げ出す元風俗嬢のヒロインに、ひっそり死んでいくホームレスの第一犠牲者など、社会派アニメ作家としてのヨン・サンホ監督のガチ度が強い、クセのある仕上がりだ。もちろん、相変わらず単調で、キャラの躍動感が感じられないうえ、イヤ~なドンデン返しのオマケ付き。まるで別人が撮ったように見えるかもしれないが、これぞ監督の真骨頂! どハマリした後、来月公開の前作『我は神なり』で打ちのめされるのもアリ。
今敏ファンの監督が描く社会派ゾンビアニメ
きっちり社会派のゾンビものなのは、オープニングから明確。人々で賑わうソウル・ステーションで、ホームレスの男がケガをして歩いているのに、誰もそれを気にせず、それに気づいた学生ふうの男も、少し近づいて悪臭が匂ってくるとそれ以上は接近しない。そこからゾンビが発生していく。ホームレスたちや借金のため店から逃げた元風俗嬢らが、ゾンビから逃れようと右往左往し、警察も役に立たない。監督は今敏監督の「PERFECT BLUE」「東京ゴッドファーザーズ」のファンとのことで、実写映画的な描写や社会風刺に共通するものがある。そんな物語の中、ヒロインの長くすんなりした脚の線が、ちゃんとエロティックなのがいい。
『新感染』と併せて見ればより面白いアニメ版前日譚
『新感染ファイナル・エクスプレス』よりも先に企画されたものの、結果的に完成が後になってしまったアニメーション。同じヨン・サンホ監督による前日譚だ。
内容としてはゾンビ・パンデミックの出発点だが、単なるビギニングでは終わらない。ホームレスの老人に端を発する感染は、人々の無関心や差別意識によって急速に広がっていく。その背景に浮かび上がるのは、弱者がさらなる弱者を虐げる韓国社会の荒んだ現実。それは、すなわち世界の現実でもある。
いわば『ウォーキング・デッド』に対する『フィアー・ザ・ウォーキング・デッド』的立ち位置の作品。それぞれ単体でも楽しめるが、併せて見れば監督の意図がより明確になるだろう。