幼な子われらに生まれ (2016):映画短評
幼な子われらに生まれ (2016)ライター3人の平均評価: 4
役割の呪縛から解放された先に見出す希望の光
再婚した妻の連れ子との不和に悩むサラリーマンを中心に、男に頼りがちな専業主婦の妻とキャリア志向の強い元妻、身勝手で乱暴な妻の元夫、大人の事情に付き合わされる子供たち、それぞれの複雑な想いが交錯していく。
血のつながりに囚われない家族の形を模索する物語だが、一方で多様化する社会的な役割を考察する物語でもある。男と女、父と母、親と子。こうあるべきという固定概念がいまだ根強い日本社会にあって、その呪縛から解放された先に希望の光を見出す。
これまで三島有紀子監督の描く非現実的な世界観が苦手だった筆者だが、今回は現代日本の心象風景を極めてリアルに見つめており、新境地を開いたような印象を受ける。
家族になろうよ。
前作『少女』でやっちまった感があった三島有紀子監督だが、これまでとテイストの違う重松清原作の本作で一皮剥けた感アリ。妻の連れ子に誠心誠意尽くそうとするバツイチ男という、新境地に挑んだ浅野忠信は、『淵に立つ』より代表作といえ、一見やりすぎに見えるクドカンの芝居もボディブローのように効いてくる。『葛城事件』で確変した田中麗奈には、ややモノ足りなさも感じるが、これは男性目線と女性目線とで異なる面白さゆえかもしれない。“家族の繋がりとは何か?”を問う、さんざん擦られてきたテーマながら、是枝裕和監督作には足りない重厚感も魅力であり、自宅マンションや倉庫など、狙ってるロケーションにも注目したいところ。
この国での「結婚」「家族」をめぐる赤裸々な心理が抉り出される
限界をきたし壊れた親と振り回されるアンビバレンツな子供たち。この国での結婚や家族をめぐる赤裸々な心理が抉り出される。複雑な事情を乗り越え家族であろうとする父。新たな命を宿した母。血のつながりに苦悩する娘。単調な日常に耐えきれなかった前の父…。身勝手な言動で夫婦関係や親子関係の均衡は、いとも簡単に崩れゆく。「家族」になるのは容易ではない。だが、血がつながっていなくとも家族になることが出来る。所詮弱いけれど、誰しも優しさを秘めている。人間の可能性と不可能性を露わにする脚本が素晴らしい。亀裂が生じた夫婦を象徴する妻の言葉「理由は聞くけど、気持ちは聞かない」は、名セリフとして記憶されることだろう。