否定と肯定 (2016):映画短評
否定と肯定 (2016)ライター3人の平均評価: 3.7
真実を伝えることの難しさと重要性を痛感する力作
ナチスによるホロコーストは本当に実在したのか?あまりに証拠があり過ぎて論議の余地などないように思われるが、しかし歴史に限らず様々な学術分野において、事実をねじ曲げたり都合よく解釈するなどして、注目や支持を集めようとする「トンデモ論者」が現われる。近ごろ流行りのフェイクニュースなども同類だ。
本作ではホロコースト否定論者に訴えられた大学教授が、自らホロコーストの存在を立証せねばならなくなる。簡単なようでいて実は非常に厄介だ。相手はいくらでも揚げ足を取るし、同じ土俵に立てば相手の主張に信憑性が増す。真実を伝えることの難しさと重要性は、情報化社会の今だからこそ尚さら痛切に感じられる。
怪しげな歴史修正主義者を論破するために必見の理知的な法廷映画
歴史的な法廷闘争の実話に基づく映画化は、今現在を考える上でタイムリーだ。邦題『否定と肯定』は、ナチスによるホロコーストは「なかった/あった」を争った裁判だとミスリードする危険性を孕む。原題は『否定』。明らかに虚偽のトンデモ説を同等に並べず、同じ証言台に立たせないことこそ本裁判における弁護団の戦術の核心である。声の大きな歴史修正主義者の言説がまことしやかに流布されるSNS時代、屈折した感情を抱き、捏造目的のある輩が吹っ掛ける議論の罠に如何に対応すべきか、この映画は教えてくれる。トンデモ説でも心から信じていれば言論の自由が適用される。ではどうやって修正主義者を論破したのか。劇場で確かめてほしい。
オルタナティブファクトをまかり通させないことが重要
ナチスのホロコースト否定論者から名誉毀損で告訴された歴史学者のバトルは、トランプ大統領のせいでまかり通っているオルタナティブファクトの危険性に警鐘を鳴らす。学者役のR・ワイズも熱演だが、心を動かされたのはトム・ウィルキンソン演じる弁護士。CSI的に集めた事実を積み重ねて検証Sし、ホロコースト否定論を法廷で力強く論破していく姿がヒロイックだ。一方、否定論者役のT・スポールも別の意味で素晴らしく、観客から100%嫌悪される差別主義者を怪演。法廷場面は非常に見応えがある。それにしても、歴史に修正はつきものだが、記録された歴史が事実であるか否かを確認するのは困難な作業だとつくづく感じた。