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モリのいる場所 (2018):映画短評

モリのいる場所 (2018)

2018年5月19日公開 99分

モリのいる場所
(C) 2017「モリのいる場所」製作委員会

ライター3人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.7

中山 治美

豊潤な時間を創り上げた、確かな技術

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

格別、事件が起きるワケではない。
だが平穏な一日のなんと豊かなことか。
あらゆる生物と植物が共存する森のような庭。
時代と歴史を感じる家屋や小物。
夫婦の歩みと絆が滲み出る山崎努と樹木希林の絶妙なコンビネーション。
彼らを囲む個性豊かな人たち。
全てが”画壇の仙人”熊谷守一の創造の源であり人生哲学を表現しているわけだが、
美術・撮影・演技などどれ一つ欠けても成立しなかった世界。
映画は総合芸術であることを改めて実感するだろう。
そして映像は雄弁に物語る。
日常を慈しむことがいかに心を豊かにするかを。
何気ない日々や普通の人々を輝かせることを得意とする沖田修一監督の真骨頂である。

この短評にはネタバレを含んでいます
山縣みどり

懐かしい昭和の日常と監督の遊び心にニヤリ

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

画家・熊谷守一と妻のある1日(文化勲章の内示を断った日!?)を追うだけなのに、夫妻の人となりや来し方がしっかりと伝わってくるユニークな人間ドラマだ。まず熊谷という画家の存在感がすごい。自分の好きなものだけをじっと観察して描き、画壇の名声などお構いなし! そんな夫の「好き」を理解する妻の飄々とした佇まいもかっこいい。しっくりと息のあった老夫婦を演じる山崎努と樹木希林のケミストリーは完璧。会話の間や表情、視線の向け方などちょっとした演技にベテランの実力をのぞかせてくれる。時代設定が昭和なので、『寺内貫太郎一家』やザ・ドリフターズを思い出させる笑いを挟み込んだ沖田監督の遊び心にもニヤリ。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

イノセントへの志向の裏に

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

沖田修一監督の「若年寄」イズムが十全に発揮された一本。朴訥かつ巧緻な味わいの中に、微量の毒や風刺精神がぴりっと効いている。山崎努が自身のアイドルと語る熊谷守一の大切な企画を、ベテランではなく沖田監督に任せた事自体に感動。昆虫学者ファーブルの「アルマスの庭」等を連想する庭の造形と描写も素晴らしく、まさにひとつの宇宙といった趣。

設定は昭和49年、高度経済成長の延長で都市化の波が起こっており、美大生達による建設反対運動は三里塚闘争にリンクする時代の雰囲気アリ(その一方、お茶の間的なドリフターズの話題が出るさじ加減がいい)。樹木希林つながりの他、問題提起の在り方としても『人生フルーツ』に通じる。

この短評にはネタバレを含んでいます
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