モリーズ・ゲーム (2017):映画短評
モリーズ・ゲーム (2017)ライター4人の平均評価: 3
冷徹キャラ、ジェスカ・チャステインが垣間見せる人間的な脆さ
実話だと知らされなければ、何とも奇抜な物語だと感じることだろう。五輪候補の女性アスリートが挫折してセレブ御用達ポーカールームの敏腕経営者となるが、違法ゲーム主催の容疑で逮捕されるのだ。見せ場はポーカーと法廷。膨大なセリフ劇で人物の内面をえぐる脚本家アーロン・ソーキンの初監督作は、原作である回想録だけに依拠せず、父との確執を中核に据えた。頭脳明晰にして栄光と転落を行き来する冷徹キャラは、女優ジェスカ・チャステインの専売特許になりつつあるが、本作では人間的脆さも垣間見せる。それは演出の領域に踏み込んだソーキンが、やや感傷に陥り、性善説に傾いて人間を観る眼に甘さが生じたようにも感じさせる。
芯の強い女を演じさせたら当代随一のジェシカが快演!
闇ポーカー賭博の世界に迷い込み、才覚があった故に身を滅ぼしかけた女性モリーの半生はそれだけで普通の人間の2生涯分はありそうに盛りだくさん。普通なら心が折れるところで逆に闘志を燃やすモリーのガッツは、生来の性格が父親のスパルタ教育で鍛えられたおかげか。芯の強い女を演じさせたら当代随一のジェシカ・チャステインのきりりとした佇まいが生きる。アーロン・ソーキンの監督デビュー作なので当然、台詞の応酬だが、ジェシカをはじめとする役者陣が見事な力量を発揮。コメディ演技を封印したクリス・オダウドがいい! ギャンブル依存症者や賭博の世界を利用とするマフィアも登場するので、カジノ誘致礼賛派の人には是非見て欲しい。
頭脳明晰かつ勝負師。モリーの人物像がカッコイイ
主人公モリーの人物像に魅了される。頭脳明晰で勝負師。合法/非合法は意識するが、善/悪とは無縁。何度も大きな障害が立塞がるが、泣き言は言わない。それでいて実は幼少時に心的外傷を負っている。そんな人物だ。
監督・脚本はアーロン・ソーキン。「ソーシャル・ネットワーク」「マネーボール」「スティーブ・ジョブズ」の脚本で、実在の人物から独自の"劇的な物語"を抽出してきた彼が、監督にも初挑戦しその技を発揮する。
そして、ポーカーをまったく知らなくても、ゲームで何が起きているのか何となく分かるのも、脚本の力。ポーカー好きとギャンブル好きの違いも描かれて、主人公がポーカーを好んだ理由も分かる気がしてくる。
畳み掛けるような“ソーキン節”がたっぷり
「ソーシャル・ネットワーク」でオスカー脚色賞を受賞し、「ザ・ホワイトハウス」などテレビドラマでも高い評価を得たアーロン・ソーキンは、矢継ぎ早の長いセリフで有名。彼のセリフを言ってみたいと憧れる役者は多いが、その意味で、ジェシカ・チャステインやイドリス・エルバにとって、これはまさに夢が叶ったような体験だっただろう。実力派のふたりが延々とやり合うシーンはたしかに迫力があり、それだけで見る価値はあると言える。だが、誰よりもこれらのセリフを愛するソーキン本人が監督でなかったら、やや同じことの繰り返しのように感じられるシーンなどが削除されて、もっとすっきりしたのではとも思う。