妻の愛、娘の時 (2018):映画短評
妻の愛、娘の時 (2018)ライター4人の平均評価: 3.8
そこはかとなく惹かれる百恵顔
主題は、地方と都市の格差が広がる中国社会がもたらした家族の悲劇だろう。
夫の亡骸を、本妻と別宅の家族とが奪い合う。
それをコミカルにして娯楽色を強めたのは、直球批判で当局を刺激しない為の、監督の強かさか。
じゃあ、素直に笑えるかというと難しい。
救いは、両家の仲裁役兼、観客が感情移入しやすい役として活躍するラン・ユエティン演じる孫娘の存在。
これが山口百恵似の憂さと色気があって、彼女を見続けているだけで飽きない。
長髪を本役のためにシルヴィアが切らせて百恵度が強まったというから、さすが役者の生かし方を知っている。
自身の夫役に田壮壮監督を起用したのも含め、”名女優、名監督なり”。
20.60.80の恋
いかにもシルヴィア・チャン監督・主演作らしい女性映画。とはいえ、自身のモテモテっぷりが鼻についた過去作と違い、本作では主軸となる母親の納骨問題や自身の定年退職に加え、夫の浮気疑惑にも頭を抱えるなど、いろんな意味でギリギリキャラなのが興味深い。娘とバンドマンとのエピソードに尺を割きすぎてる感もあるが、鉄板ばあちゃんネタに、愛娘が勤めるTV局の過剰報道、ティエン・チュアンチュアン監督演じる飄々とした夫との絡みなど、笑いを交えた演出は、円熟味を感じさせるほど。夫婦の想い出の一曲であるツイ・ジェンの『花房姑娘(温室の娘さん)』など、ヒット曲の使い方も効果的だ。
中国社会の今を映し出す端正な女性映画
亡き母を父と一緒に埋葬するため、田舎にある父の墓を町へ移そうとするヒロイン。だが、かつて出稼ぎ先の町で母と恋に落ちて結婚した父には、田舎に残してきた最初の妻がいた。その最初の妻が墓の移動を頑なに拒む。この「お墓問題」を巡る騒動を通して、今なお前時代的な古いしきたりの残る田舎と、すっかり西欧的な生活習慣が定着した都会の落差、つまり急速に近代化を遂げた中国社会が内包する矛盾が浮かび上がる。と同時に、個人が土地や家族に縛られた旧世代、移動や恋愛の自由を謳歌する新世代、その狭間で時代の移り変わりを見てきた主人公の、3世代の女性それぞれの恋愛観が描かれる。中国の今を如実に映し出す端正な女性映画だ。
世代ギャップはあるけれど、求める愛は同じ
祖父の元妻と母娘という三世代の女性の愛を綴った物語には、共感する点が多い。まず墓の移転をめぐる争いは、墓じまいを考える世代にとって他人事ではないはず。自分の都合だけで祖先との絆を断ち切っていいのかと疑問を投げかけてくる。さらに考えさせられたのが家族の形だ。シルヴィア・チャン監督が演じる主人公フイインが価値観の異なる父の元妻ツォンを家族と認めようとしない一方で、彼女の娘は素直に“おばあちゃん”と受け入れる。夫の帰郷を待ちわびたツォンと自身を重ね、厳格な母への反抗もあるだろうが、根底にあるのは「寛容」。男に翻弄されながらも愛されることを願う女性たちの切なくもたくましい姿から学ぶことは多かった。