この世界の(さらにいくつもの)片隅に (2018):映画短評
この世界の(さらにいくつもの)片隅に (2018)ライター3人の平均評価: 5
アニメの可能性を発展させる、内面描写の深化とフィジカルの実存
時代と人間への洞察力に驚嘆する。2016年の前作が、戦時下を健気に生きた女性を見つめる映画だとすれば、今作は、取り巻く人間関係から彼女の葛藤や苦悩を抉り出す映画へと深化した。かといって、登場人物の思考が全て暴かれるのではなく、多面的な解釈を促してもいる。追加された38分によって、既存のカットの意味さえも変容させる演出には舌を巻く。こんなにも、ヒロインの身体性を実感させるアニメ映画はあっただろうか。無垢で天然に思えた前作を覆すほどに、意識の奥底の情念が露わになった。現実の苦さをも描く片渕須直が、高畑勲の精神をより発展させるアニメーション作家として、さらに一歩前進したことは間違いない。
新しい映画を見るような気持ちで臨みたい
現行版より30分以上長いロング・バージョンだが、しかしあえて「完全版」や「ディレクターズ・カット版」などと銘打たなかったことには、やはりそれ相当の意味があると言えよう。一人の女性として、そして妻としてのすずさんの苦悩や葛藤・迷いを丹念に掘り下げ、さらには遊郭の女性リンとのささやかな友情と触れ合いを織り交ぜることで、戦前・戦中の軍国・日本に生きたごくごく平凡な女性の愛情と喜び、哀しみと憤りなどの複雑な感情を浮き彫りにしていく。すずさんだけでなく作品そのものの印象もだいぶ変わり、より「女性映画」的な傾向が強く打ち出されているように感じる。新しい作品を見るような、まっさらな気持ちで臨みたい。
すずさんの女の部分が強調された、新たな名作の誕生!
「劇場公開版」に先立つ「特別先行版」にて。約30分、250超のカットが追加されたことで、“女の一生”感が強調。少女らしさが残る天然ドジっ子にしか見えなかった、すずさんの女性としての一面を垣間見ることで、オリジナルとは異なる印象を持ち、名ゼリフ「この世界の片隅に、ウチを見つけてくれてありがとう」も違う解釈できるだろう。また、遊郭で働くリンとの関係性を掘り下げるなど、オトナ向けエピソード満載で、二河公園でのお花見シーンでは、オリジナルでは体感できなかったスリリングな展開も! いろんな意味で、『ニュー・シネマ・パラダイス 完全版』らしさもありながら、やっぱり違う新たな名作といえる。