ナディアの誓い-On Her Shoulders (2018):映画短評
ナディアの誓い-On Her Shoulders (2018)ライター3人の平均評価: 4
平和への闘争のロールモデル
ベストセラー本『THE LAST GIRL』 (まさに今読むべき一冊。『アンネの日記』に匹敵すると思う)を補完する大切な一本。ISISによるヤズィディ教徒蛮行の宗教・社会・政治的背景を踏まえ、重要なオピニオンとなった被害者=サバイバー、ナディア・ムラドの等身大の姿を追う。普通の「村娘」がジャンヌ・ダルクのごとく最前線に立つ事の重圧と使命感。
声なき者が声をあげ始めた時代、困難も含めた活動現場のドキュメントとして姿勢が正される。先述の著作に素晴らしい序文を寄せた弁護士アマル・クルーニー(ご存じジョージ・クルーニーの妻でもある)の登場は、セレブと呼ばれる有力者の在り方を問う意味でも示唆的だろう。
考えさせられる性的虐待のPTSD
ナディア・ムラドはノーベル平和賞2018の受賞者だ。
本作が追うのはその前。
ISの虐殺と性奴隷の被害を受けている宗教的少数派ヤジディの救済を求め、彼女が人身取引に関する国連親善大使に就任するまでだ。
その為に彼女は、実体験を書籍や取材で繰り返し語る。苦痛の表情と涙を浮かべながら。
悲惨な事件・事故が起こった時、各メディアは同じ質問をぶつけ、根掘り葉掘り”真実”を掘り起こす。
それがいかに残酷な行為であるかを、カメラは無言で訴える。
それでも彼女は前を向き、表に立つ。
その覚悟は、同様の苦しみを味わっている人たちの希望となるに違いない。
この細い肩に背負う、辛さ、使命、そして希望
「これは職業ではない」と、ナディア。彼女はむしろ、メイクアップアーティストなり、農民なり、良い生徒として知られるようになりたかった。しかしISISから逃れ、ドイツでセラピーを受け始めた時、彼女は、自分だけが救われるのではなく、犠牲者たちみんなの声になろうと決める。今起こっていることを知ってもらうため、彼女は数々のメディアに登場し、思い出したくもない日々を繰り返し語ることに。タイトルにあるとおり、彼女が肩に背負う苦しみを描く今作はまた、難民問題やメディアのあり方をも問うていく。彼女の抱える辛さと強さ、国際社会への苛立ちと、そして最後には少しの希望に、何度も泣かされる。