主戦場 (2018):映画短評
主戦場 (2018)ライター3人の平均評価: 5
ドキュメンタリーなので作り手の意図が入るが、それでも…
取材を受けた人のコメントの一部を切り取り、反論する側との意見と交互につなぐことで、ある方向性を導く。しかし切り取られた部分が極端であれば、そこのみが一人歩きする。今作はその危険もはらむが、できるだけ冷静に向き合って観ても、証言者の意思は的確に伝わるし、客観性も強いと感じる。少なくとも、残された資料に頼るだけの主張と、戦時を実体験した人の言葉の信頼度の違いは感覚的にわかる。
自国を愛すること。理想を求めること。相手を持論で支配すること。そして思い込んだら、疑わずに生きること。それらは人間の本能でもあるし、国際政治のシビアな現実に、もどかしさと暗澹たる気持ちに誘われるが、これも映画の力なのだろう。
浮き彫りにする慰安婦問題論争の本質
史実の真偽は別として、慰安婦問題論争には違和感があった。
なぜ当事者の声は嘘とし、机上の情報の方を信じるのか。
なぜ縁もゆかりもない場所にまで慰安婦像を建てようとするのか。
そもそも論争の中心者は当事者でも親族が関わっているというわけではない。
なのに絶対的な自信と憎悪で異論者を攻撃する。
だが両者に取材し、疑問点を追求した本作が問題の本質を露わにする。
何かの思惑に則って発信しているから彼らの言動には違和感を抱くのだと。
本作を鑑賞した韓国の学生が言ったという。
「慰安婦問題は日韓問題ではなく人権問題なのですね」と。
それを世に提示するため、あえて火中の栗を拾いに行った監督に拍手。
我々の『THE LAST GIRL』問題
日系アメリカ人のYouTuber出身監督による超白熱作で、上映館(シアター・イメージフォーラム)に最大限の敬意を表しつつ、本当はTV放送とかして欲しい。映画の中で街頭インタビューに答えている若い世代(先入観のない人達)にまで拡散すれば、何か新しい判断や認識、重要な動きが生まれるのだと思う。
構成は公平性を重んじる「論争」形式。議論を“声の大きい者が勝つ”場のテンションから引き剥がし、ロジカルに意見や立場を対峙させていく(それだけにある「転向者」の発言は一際迫力があった)。全体としては、日本の向かう先とその国際的評価にまつわる断面がよく整理されており、現状把握の解像度が一気に上がることだろう。