風をつかまえた少年 (2019):映画短評
風をつかまえた少年 (2019)ライター3人の平均評価: 4
民衆が力を合わせて社会を変えていくことの大切さ
世界で最も貧しい国と呼ばれるアフリカのマラウイを舞台に、自然災害による食糧難と貧困に苦しむ家族や村人を助けるため、独学で風力発電システムを構築した少年ウィリアム・カムクワンバの実話を描く。教育や福祉の重要性もさることながら、政治権力が私利私欲に走って腐敗し、国家が国民の窮状に目を向けなくなった時、民衆が共に手を携えて社会を変革していくことの大切さを訴える。なぜながら、たとえウィリアム少年のような救世主が現れたとしても、彼に力を貸して後押しする民衆の団結力が必要不可欠だからだ。今の日本人が学ぶべき点も少なくない。監督を兼ねたキウェテル・イジョフォーの、心温まる柔らかな演出も好印象だ。
舞台は遠いアフリカでも、ドラマは普遍的
アフリカ、マラウイの農家という、なじみの薄い異国の現実に注目した点に、まず拍手。一見、商業的ではない題材だが、それでもドラマは家族や貧困、教育制度、圧政など、万国共通のエッセンスをはらんでいる。
とりわけ、マジメにやっても報われない現実に苛立つ父と、理工学に強い興味を持つ息子の葛藤はドラマのコア。子に好きなことを学ばせたい気持ちは親としては当然だが、それを許さない環境もあり、考えさせられた。
ベストセラーノンフィクションに基づいて物語を構築したイジョフォーの描写は丁寧で、雄大な映像美を含めて、監督としての才をうかがわせる。演技未経験の男の子から自然なキャラを引き出した演出も光る。
イジョフォー監督、グッジョブ!
自家製風力発電と水揚げポンプを開発し、村の農業を救った少年の話だ。
だが脚本も手がけたキウェテル・イジョフォー監督は、長編デビュー作ながらなかなかの英断をしている。
タイトルの風をつかまえるのは最後の最後で、情感を煽る安っぽいお涙頂戴も排除。
注力したのは少年を駆り立てた貧困国の厳しい現状を世に知らしめることであり、
とりわけ教育への不理解が、多くの可能性を芽を摘んでいることを訴えている。
欧米ではキウェテルをはじめとする黒人俳優の活躍が増えているが、
その結果が、恐らく今までならなかなか企画が通りづらかったであろう作品を生み出すことに繋がっている。
映画界における多様性。面白くなってきた。