ソワレ (2020):映画短評
ソワレ (2020)ライター5人の平均評価: 3.8
テーマが広く議論される世の中に!
家庭内の性暴力という重いテーマが潜む。裁判の例を見るまでもなく日本では事の重大さが認識されていないようだが海外では重罪であり、映画で描こうものなら嫌悪感を抱く人も多い。恐らく企画した際、海外では売りにくいという声も上がったのではないだろうか。そこにあえて踏み込んでいるだけあり、母親との不和、周囲の不理解など取材に基づいたであろう丹念な脚本が光る。そして被害者の心の叫びを自分の痛みとして体現した芋生悠の存在が物語に躍動と力を与えた。未来ある女優が覚悟と勇気を持って挑んだ役だ。映画という枠を超えこのテーマへの議論が広がり、そして同じような苦しみの中にいる人への理解に繋がる事を願わずにはいられない。
かたく強く抱きしめられるのは主人公たちと、あなた。
若い、というよりもまだ幼な気な主人公、翔太とタカラの“アオハル”な逃避行。したくても自己肯定できない二人のバックボーンの違い、温度差が映画になだらかな角度をもたらす。虚勢がだんだんと空回りし、素の優しさが表面化する翔太。一方タカラは空っぽだった心に“エーテル”が堆積していき、地に根を張っていく。
二人の、その一挙手一投足がガリガリっと観る者の胸に引っかき傷をつけてやまない。ポイント(のひとつ)は逃避行の果てに、ベッドを共にする場面。しかし単なるラブシーンではない。けれども確かに愛が交歓される。外山監督は翔太とタカラ、W主演の村上虹郎と芋生悠をとことん突き放しながら、かたく強く抱きしめている。
危い逃避行をピュアに転化する主演2人。一瞬の江口のりこも絶味
演者(村上虹郎と芋生悠)の実年齢も、そしておそらく役の設定もともに20代だが、恋愛感情の薄い2人の逃避行は、どこか10代のピュアな輝きを放つ。主演2人の魅力が、そうさせるのか。だからこそ、特に前半から中盤は、彼らの行動に純粋に感情移入してしまう。
セリフの少なさや控え目な共演陣も、その感情移入に効果的。かかとや爪のアップに、その日の行動や過去の人生が重なり、肉体的に距離がある2人を、ある仕掛けで切なく寄り添わせるなど、演出の妙を要所で実感する。
セリフに出てくるとおり、弱者が損をしてしまう社会への痛烈な批判でテーマ性も文句なし。ただ、終盤からラストへの流れは、やや賛否が分かれるかもしれない。
“あの頃”の空気感が突き刺さる
紀州・和歌山に伝わる安珍・清姫伝説と、“生きるためのかけおち”がシンクロしていく、じつに日本映画的な『地獄の逃避行』。展開や画作りなど、90年代ミニシアター・ブームを実体験した者にとっては、いろいろと既視感があるかもれないが、あの頃のざわざわした空気感が懐かしさとともに刺さるのは間違いない。とにかく、不器用すぎる2人を演じる村上虹郎と芋生悠は魅力的であり、ここでも江口のりこが、しっかりサポート! ただ、クァク・ジェヨン的なオチも悪くないが、『わさび』など、短編でもしっかり人間ドラマを描ける外山文治監督作としては、111分という尺は若干欲張りすぎた感もアリ。
勝因はヒロイン・芋生悠
何はなくともヒロイン芋生悠の存在が抜群です。
彼女を捕まえたところで作品の勝ちは決まったと言っていいのでは?
これまでも多くの作品で印象深い演技を見せてきましたが、これで大きくジャンプアップするのではないでしょうか?
そんな彼女とともにファンタジーとリアルの間を行き来する村上虹郎の受けの演技も見逃せません。
ほぼ二人芝居のような作品ですが、最後までどうなっていくのか?と釘付けになりました。
外山文治監督の名前と共に憶えておきましょう。