ミセス・ノイズィ (2019):映画短評
ミセス・ノイズィ (2019)ライター3人の平均評価: 3.7
不寛容さが広がるこの社会に灯された“希望”の映画
不寛容さが広がるこの社会に灯された“希望”の映画。「角度によって物事の見え方が変わる」作劇自体はスタンダードだが、邪悪な自己を複製、増幅、感染させてゆく、人間のウイルス的側面にリーチした「仕掛け」が巧み。要所要所に虚を突く展開を用意し、終盤にはしっかりと観る者の心の琴線を震わせる。
「ヤバい騒音おばさんvs.スランプ気味の作家」というアングルを変容せしめる、大高洋子と篠原ゆき子のマッチアップの裏で、殊勲賞モノなのが新津ちせ。 他にも『喜劇 愛妻物語』『アンダードッグ 前後編』と今年の重要作で娘役としてヘヴィーな身の上を体現! 何と「清野とおるの漫画が好き」な彼女の本格インタビューが読みたい。
視点を変えれば、他人への理解も増すはず
騒音おばさん事件から発想した作品だが、現代人が直面する孤独や人間不信に踏み込んだ多面的で深い人間ドラマに仕上がっている。隣人との間に生まれた誤解が嫌がらせ合戦に発展し、被害者とされる小説家も一見「危ない?」と思われる加害者(?)である中年女性も言い分があり、監督が視点を変えることでそれぞれの人生模様が浮かび上がる作りが巧みだ。SNS社会におけるメディアリンチの恐ろしさや他人と関わらずに生きたがる現代人の寂しさがズシンと胸に響いた。大高洋子が演じた騒音おばさんの、人生のあれこれを飲み込んで真っ直ぐに生きようとする孤高の姿勢がかっこいい。すぐにひよってしまう自分を反省してしまった。
「羅生門」スタイルで描く、ご近所トラブル
“騒音おばさん”をモチーフに、コミカルかつ「羅生門」スタイルで描くご近所トラブル。導入部こそ、再現ドラマ感が強めだが、ちょっとした勘違いとマスコミ、SNSの力によって、小市民がモンスターに仕立てられる現代社会の危うさを描写し、“常識・非常識とは?”をも問う、社会派エンタメに仕上がっていることに驚きだ。一方で、笑いがブラックに走らない点や賛否ありそうなラストなど、天野千尋監督の優しさや人の良さがダダ漏れしている。そして、公開順は逆になってしまったが、『罪の声』に続いて、いわくつきの母親役がハマる篠原ゆき子。今回スランプに陥った小説家というキャラ設定は、ちょっとズルいかも。