世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ (2018):映画短評
世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ (2018)ライター2人の平均評価: 4
まさしく「クストリッツァ的」な戦士の肖像
劇場の休館を受け、期間限定でデジタル配信中。公開延期になった田部井一真監督の『ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ』がベストセラー絵本から理解を一段上げてくれるものだとしたら、こちらは「男の顔は履歴書」としてのムヒカを捉えた極上のポートレートだ(両作は良い補完関係にある)。キューバシャツを着た「剥き出し」の心優しき戦士の魅力全開で、イメージ戦略なんぞとの小賢しさとは無縁のかっこよさ。
もちろん単なる「清貧」を超えたアフターコロナでこそ更に響く金言多数。そしてゲリラ時代から「愛と政治闘争」を長年共にしてきた夫人のルシア――彼らはクストリッツァ映画の主人公にふさわしいベストカップルだ。
次の選挙の参考に
国難に直面して露わになるリーダーの本質。この方だったら間違いなく国民の目線に立った政策をとっただろう。「大勢の国民に選ばれたなら、国民と同じ暮らしをすべき」と公用車にも乗らず、職務の合間に農業に勤しんだムヒカ元大統領だ。本作はボスニア紛争に巻き込まれたクストリッツァ監督らしく、ゲリラ活動を行い約12年投獄された経験を持つ元大統領の過去を掘り下げる。その獄中生活を描いた『12年の長い夜』(Netflixで配信中)と合わせて観賞すると、達観した思考に至った経緯がより鮮明に。語録だらけのインタビューを聞きながら、人の痛みを知り、自分の言葉を持っているリーダーは違うと改めて考えさせられるのであった。