子どもたちをよろしく (2020):映画短評
子どもたちをよろしく (2020)ライター3人の平均評価: 4
格差社会の歪みが招く子どもたちの悲劇
現代の日本を蝕む深刻な貧富の格差や様々な差別を背景に、一見したところ対照的に思える中流家庭と貧困家庭それぞれが抱える深い闇に斬り込むことで、社会の歪みがいかにして家族の崩壊を招き、さらには子供たちの世界にまで悪影響を及ぼしていくのかを、痛々しいまでのリアリズムで描く。弱者切り捨てと自己責任で疲弊しきった大人たち。そんな親の背中を見て育つ子供たちの心も荒み、そのしわ寄せがいじめや自殺などの悲劇を招いていくことになる。数々の社会問題を多層的に織り込んだ脚本が見事。荒廃した日本社会の実像に生々しく迫る映画として、『万引き家族』や『ギャングース』にも匹敵すると言えよう。
連鎖していくヘヴィな現実
シアトルのストリートキッズに密着したドキュメンタリー(原題:Streetwise)と同タイトルだが、いじめや自殺、格差社会をテーマにした本作は、2人の少年を中心に、大人たちの事情も大きく絡んだ群像劇。至ってマジメな日本映画的な作りのためか、どこか教育映画にも見え、クズな父親を演じる川瀬陽太も、『JKエレジー』のような笑いに結びつかず、ひたすらヘヴィな現実が連鎖していく。また、鎌滝えりも、『愛なき森で叫べ』に続き、健闘しているものの、彼女演じるデリヘル嬢が最後に取る行動は、どこか腑に落ちなかったりも。さらに、いじめの描写はあまりに直接的で、時代錯誤を感じたりもする。
子どもが不幸せな世界であってはいけないはずなのに…。
児童虐待死やいじめについての報道が後を立たず、胸が痛い。貧困や育児放棄、DV、いじめと子どもを取り巻く状況が悪化しているのは間違いない。本作はそんな現実を描き、大人のせいで居場所を失う子どもの心の叫びを伝えてくれる。稼ぎを全てギャンブルに注ぎ込んだり、再婚相手の娘に性暴力を繰り返したり、夫の異常行為を見て見ぬふりをしたり。親の情けなさや周囲の無関心がいじめと被害者を生む、この負の連鎖をたち切るはずの行政や福祉の税弱さが悲しい。しかし、だからといって何かアクションを起こすでもない自分自身が一番ダメなのだと自戒する。いじめられっ子を演じた椿三期がとても印象的で、忘れ難い。