暗数殺人 (2019):映画短評
暗数殺人 (2019)ライター3人の平均評価: 4
チュ・ジフンの怪演にヴィランの”美”をみる
地道で、どこかもっさりした中年刑事と、頭の切れる口達者な殺人犯。この対照的なキャラの対決の構図が、まず面白い。
物語は前者の視点で後者のキャラを見つめつつ展開。ゆえに何を考えているかわからない後者の不敵さが際立つのだが、一方では人間臭く不器用な前者に共感が集まる。多彩な娯楽映画を手がけてきたキム・テギュン監督の絶妙のバランス感覚。
『チェイサー』のキム・ユンソクはもちろん好演を見せるが、記憶に残るのはむしろチュ・ジフンの怪演。ひょうひょうとマウントをとり続けながらユンソクを翻弄する一筋縄ではいかない凶悪犯キャラにヴィランの妖しい美学が宿る。目が離せない。
人情ドラマとしても見応えある韓流ノワール
次々と自慢げに過去の犯行を自供する不敵な連続殺人犯。被害者の無念を晴らすべく捜査に乗り出す刑事だが、しかしコロコロと変わっていく犯人の証言に振り回される。いったい正確な被害者は何人なのか、そもそもこいつの言っていることはどこまでが本当でどこからが嘘なのか?…ということで、実際の事件を基にした韓流ノワールだが、司法の落とし穴を巧妙に悪用する犯人とそれに翻弄される刑事の駆け引き&知恵比べが最大の見どころ。チュ・ジフン演じる犯人の狡猾なサイコパスぶりも強烈だが、なによりどこまでも名もなき被害者に寄り添う実直な刑事(キム・ユンソク)が魅力的で、人情ドラマとしてすこぶる見応えがある。
やさぐれ刑事VSサイコパス
キム・テギュンといえば、当たりハズレが激しい監督だが、『殺人の告白』のような設定で幕を開け、『殺人の追憶』にも近いヘヴィな展開やモヤモヤした感触が突き刺さる本作は、完全に当たり。やさぐれ刑事の足を使った捜査とさまざまな顔を魅せるサイコパスな容疑者の自供、そして事件の回想で、ほぼほぼ構成されているため、最初はかなり地味な印象も受けるかもしれない。ただ、クァク・キョンテク監督も参加している脚本の面白さに加え、低温な攻防戦を繰り広げるキム・ユンソクとチュ・ジフンの芝居に引きつけられていく。その緊迫感たるや、『スマホを落としただけなのに』が茶番に見えてしまうほどだ。