エマ、愛の罠 (2019):映画短評
エマ、愛の罠 (2019)ライター2人の平均評価: 4
若い女性のステレオタイプに対する挑発
ある出来事のせいで我が子も同然だった養子を取り上げられ、周囲から一方的に愚かで未熟な母親のレッテルを貼られたダンサーのエマが、自らの若さと美しさとセックスを武器に、とある夫婦と自らの尊大なモラハラ亭主を手玉に取って翻弄していく。彼女の行動に秘かな目的があることは早い段階で察せられるのだが、しかし最後に明かされるその真意は全くの想定外で驚かされる。女性への偏見や抑圧が少なからず存在する南米チリが舞台。恐るべき聡明さと大胆さを備えたエマの存在は、若い女性のステレオタイプに対する挑発であり、観客自身の持つ固定概念そのものが試されることになる。フェミニズム映画の新境地とも言えよう。
「絶頂を踊る」時代のアイコン
極めてユニークなパブロ・ラライン監督の新作。ミレニアルよりZ世代に規定できそうなヒロインの若いダンサー、エマを象徴的に言うなら「革命家」か「変革者」だろう。火炎放射器で信号機を燃やし、解放的なレゲトンダンスを踊り、既存のルールにどんどん「NO」を突きつけていく。
G・G・ベルナル扮する振付師の夫は、エマより一回り年上で比較的権威の側に身を寄せている。母親失格の烙印を世間から押され、社会の中で色んなものを失ったエマが、荒技で人生を回復させていこうとする話だが、決して「元通り」じゃなくて「世界の仕組みを変える」ことを志す。もしいまアルモドバルが新鋭監督だったら、こういう映画を作ったかもしれない。