ソング・トゥ・ソング (2017):映画短評
ソング・トゥ・ソング (2017)ライター3人の平均評価: 3
端正な映像美と押し寄せる感情に身を任せる映画
いかにもテレンス・マリック監督らしいラブストーリーであり、恐らくそこが好き嫌いの大きな分かれ目であろう。虚飾に満ちた音楽界を舞台に交錯する男女4人の愛の軌跡を描いているものの、これといって明確なストーリーラインがあるわけではなく、流れるようなイメージとモノローグの畳みかけによって、満たされない孤独を抱えた大人たちの迷いと悟りが綴られていく。物語を追うのではなく映像に身を委ね、頭ではなく感情で理解するタイプの映画。確かに『ツリー・オブ・ライフ』以降のマリック作品ってどれもそんな感じじゃね?と言われればそれまでだが、このマンネリズムこそがファンにとっては至福でもあるのだ。
TV伝道師の説教をまだるっこしく描くとこうなる?
過剰な欲や野心は人間を毒してしまうというT・マリック監督が好むテーマを男女間の恋愛に当てはめ、ラブストーリー仕立てにした訓話と受け取った。M・ファスベンダー演じる男は悪魔であり、彼に関わった人々はさまざまな誘惑に踊らされた挙句に見失った道を求めて苦悩する。深い意味がありそうな風景映像や哲学的に思える会話が交わされるが、メッセージとしては胡散臭さ100%なTV伝道師の説教と大差なし。しかもまだるっこしい。オスカー女優や人気俳優に加え、P・スミスやフリーといった大物ミュージシャンが本人役で出演しているが、ただただ「ふ〜ん」。
俳優たちの演技力の向こうにあるものが見えてくる
俳優たちの演技力よりも、その奥にあるもっと本能的なもの、体質のようなものがフィルムに映し出されて、魅了する。共演のミュージシャンたちがみな素のままなので、俳優たちも影響されたのかもしれないが、それよりも、出演俳優たちがみな演技力を超える何かを持っているので、まったくの"即興演技"を任された時にそれが自然に現れてしまったのではないか。ファスベンダーの身体の捕食動物を思わせる動き。ゴズリングの小さな物を扱う手つきのチャーミングさ。名カメラマン、エマニュエル・ルベツキがそれらを捉えないわけがなく、監督もそれらをカットすることができなかったのではないか。そう思わされてしまう魅力に満ちている。