おろかもの (2019):映画短評
おろかもの (2019)ライター3人の平均評価: 4.3
自主の域を超越したファースト・ショット
スリリングなファースト・ショットに、とにかく呑まれる! これだけで、演出・技術的に自主映画の域を超えているのが分かるからスゴい。その後も、10日程度で撮ったと思えぬほど、1シーン1シーンが丁寧で、中だるみも含め、観ていて心地良い。将来の目標が真人間ながら、好奇心から道を外していく女子高生と、日本人も使わない言い回しを繰り出す台湾の留学生というキャラ設定もかなり面白く、今すぐメジャーなキャストを起用して、セルフリメイクしてもおかしくない完成度の高さだ。ただ、Wヒロインが企む作戦に関しては、もっと飛躍するなり、破綻する展開を期待してしまっただけに、いさかか優等生すぎる感はある。
三者三様の“感情の揺らぎ”のドラマに引き込まれる!
タイトルの“おろかもの”が示す世界像は、かのビリー・ワイルダーの『お熱いのがお好き』(59)の名台詞「完璧な人間などいない」のバリエーションと見た。というか、本作の脚本家(=沼田真隆)はかなりのワイルダー映画好きではないか。『あなただけ今晩は』(63)の有名なパンチラインも出てくるし。
共同監督に名を連ね、カメラも手にした芳賀俊、並びに撮影スタッフの健闘が光り、優柔不断な男を巡る女たち──高校生の妹とフィアンセ、浮気相手という三者三様の“感情の揺らぎ”のドラマに引き込まれる。紅白(のドレスが象徴する)女と男の対抗戦に変革もたらす「青」のそれ! W主演、笠松七海と村田唯の疾走ぶりが目に眩しい。
女たちの視点で優柔不断な不倫男をバッサリと斬る快作
結婚を控えた兄が浮気していると知って憤慨し、別れさせようと相手女性のところへ乗り込む女子高生の妹。ところが、完璧な良妻賢母タイプの婚約者を内心ウザく感じていた彼女は、不完全だけれど人間臭くてどこか寂し気な不倫相手に心動かされていく。まだ大人の恋愛を知らない思春期の真っ直ぐな少女の視点から、一筋縄ではいかない男女関係のあれこれを掘り下げていくわけだが、全体的にフェミニズム的な視点が貫かれ、立場の違う女性たちがお互いに少なからず共鳴し合うことで、無自覚に身勝手で優柔不断な男のダメさ加減が際立つ。説得力のある登場人物もみんな魅力的だし、なにより辛辣なユーモアを効かせた切れ味抜群のセリフが最高!