ココ・シャネル 時代と闘った女 (2019):映画短評
ココ・シャネル 時代と闘った女 (2019)ライター2人の平均評価: 3.5
反面教師ともすべき闘う女ココ・シャネルの人生
ここまで大胆かつ赤裸々にココ・シャネルの実像に迫ったドキュメンタリーは珍しい。現在よりも遥かに男尊女卑や階級格差が激しかった時代、貧困家庭に生まれて孤児となったシャネルは、不屈の精神で人生を切り拓いて自由と自立を勝ち取り、世の女性をコルセットやガーターベルトから解放したファッション業界の革命児だったが、しかし自らが支配階級の仲間入りをすると、反対に貧しい労働者を搾取して共産主義の台頭を恐れ、それゆえヒトラーに心酔してナチスのスパイとなる。貧しい出自の成功者が庶民の味方とは限らないという典型だろう。かつて女性の自由のために闘った彼女が、晩年は差別的で攻撃的な「老害」と化していく姿は実に複雑だ。
憧れのデザイナーの知られざる素顔に驚く
女性をコルセットから解放したデザイナー、ココ・シャネルの来し方と人となりがわかるドキュメンタリーだ。ナチスとの関係や香水利権を巡る駆け引きといった黒歴史にも触れていて、ファッション誌の礼賛記事しか読んだことがない人にはかなり新鮮なはず。才能と政治は別問題かもしれないが、第二次大戦中の彼女の行動には嫌悪感を抱きそう。この作品にはしかもココ本人も登場し、かなり辛辣な発言をする。幼い頃から戦い続けとはいえ、人々の尊敬や社会的地位も勝ち得たはずなのに、彼女のビターさに驚くばかり F・サガンやJ・コクトーらのシャネル評も興味深く、憧れのデザイナーのあまり知られていない素顔に出会える快作だ。