シンプルな情熱 (2020):映画短評
シンプルな情熱 (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
知的で聡明なインテリ女性はなぜ性の奴隷に成り下がったのか
パリの大学で文学を教えるバツイチのシングルマザーが、若くてハンサムで自信に溢れた既婚者のロシア人外交官との情事に溺れ、やがて仕事も子育ても全く手につかなくなっていく。社会的地位の高い成熟した大人のインテリ女性が、なぜよりによって女を性欲のはけ口としてしか見ない傲慢で尊大なプーチン信者のロシア人男性に惹かれ、まるで熱に浮かされたようにセックスの奴隷となって愚かな行動に走ってしまうのか。『二十四時間の情事』を友人と一緒に見たヒロインは、「美しい女性が愛されるなんて男の勝手な妄想」と切り捨てるが、そこには社会の様々な局面で女性が押し付けられるレッテルに対して彼女が抱く違和感や無力感が垣間見える。
恋・愛・性の高揚で一点突破する
「映画の日本人と違って肉体関係だけだし。彼は肉体もお尻も最高」――この映画とはヒロインがカルチェラタンの劇場で観る『ヒロシマ・モナムール(二十四時間の情事)』(59年)であり、「彼」とはセルゲイ・ポルーニン扮する男! A・エルノーによる実体験ベース小説の映画化。文芸エロスなんて言葉も思い浮かべる不倫もので「恋はドラッグ」状態を「シンプルな情熱」と名づける。
監督はヒロイン像についてサガン原作『別離』(68年)のC・ドヌーヴをイメージしていたという。クラシカルな作風かつ、道徳的フレームで囲まない映画として久々の秀作。最後は『天使の涙』(95年)と同じフライング・ピケッツの「オンリー・ユー」!