夕霧花園 (2020):映画短評
夕霧花園 (2020)ライター2人の平均評価: 3
3つの時間軸で描く、ミステリアスな関係
『九月に降る風』や『星空』といった淡く切ない青春映画を得意とするトム・リン監督が大人の恋愛を描くという面白さに加え、タイトルが示すように、霧に包まれたような湿度の高さが特徴的な一作。しかも、阿部寛演じる庭師の正体や埋蔵金をめぐる秘密などのミステリー要素や、観ていてキツい日本軍による蛮行などを3つの時間軸で描くなど、とにかく盛りだくさん。しかも、ジョン・ハナーやジュリアン・サンズまで登場する多国籍チームによる大作感。ただ、それが丁寧な心理描写を得意とするトム・リン監督と相性がいいかというと、そうでもなく、ちょっともったいない仕上がりになってしまった感アリ。
戦争に翻弄された男女の恋に隠された秘密とは?
第二次世界大戦で日本がマレーシアに残した傷跡を軸にした濃厚な恋愛物語。主人公はマレーシア華僑の令嬢ユンリンと謎めいた日本人・中村で、3つの時代を行き来しながら二人の関係と中村の秘密が明らかになる。キャラクターの心理を丹念な演出で見せるトム・リン監督なので、日本人を恨んで当然のユンリンと中村が惹かれ合う展開に無理がなく、複雑な思いを抱えた二人の恋の熱量が伝わる。一方、風光明媚なキャメロン高原のハイソな世界が耽美で美しい分、日本軍の蛮行シーンの醜悪さが際立ち、胸が痛くなる。そして驚いたのが、山下財宝や刺青といった伏線の巧みな使い方。外国人が考えるエキゾチック・ジャパンを超えていた。