テーラー 人生の仕立て屋 (2020):映画短評
テーラー 人生の仕立て屋 (2020)ライター2人の平均評価: 3.5
逆境をチャンスに変える庶民派の人情コメディ
深刻な経済不況が続く南欧ギリシャ。老父と経営する老舗の高級スーツ店が銀行に差し押さえられてしまったことから、屋台を引いて移動式の仕立て屋を始めた主人公が、ひょんなことから女性向けのオーダーメイド・ドレスを格安で受注したところ、これが大評判となってしまう。言うなれば発想の転換で逆境を乗り切っていくサクセス・ストーリーだが、同時に「困ったときはお互い様」の精神で女性たちが口コミで評判を広め、主人公もまた「お金はないけどお洒落はしたい」という彼女らの気持ちに応えていくという人情ドラマでもある。ジャック・タチやバスター・キートンを彷彿とさせる主演俳優ディミトリス・イメロスがまた微笑ましい。
無口な仕立て屋の喜びが、身体感覚と共に描かれる
サイレント映画のコメディの雰囲気。主人公の仕立て屋は、口数が極端に少なく、いつも世界の様相に驚いているかのように目を見開いていて、彼が真面目にやればやるほどどこかユーモラスに見えるところが、無声映画の喜劇俳優たちに似ているのだ。
しかし、彼の精神は古風ではない。昔ながらの紳士服の仕立てにこだわる父親とは違い、彼は試行錯誤の中で、自分がなぜ服を仕立てるのが好きなのかを知り、喜びと誇りを見つけていく。その過程が、布地の手触りを味わう、糸巻きから糸を引き出す、ミシンのペダルを軽やかに踏む、といった行為がもたらす身体的な感覚と、そこから生じる身体的な喜びを伴って描かれて、心地よい。