聖地X (2021):映画短評
聖地X (2021)ライター3人の平均評価: 3
にわかに形容しがたい味わいの不条理コメディ
韓国を舞台に、呪われた土地で起きる怪現象を描く…とくれば、誰もが『哭声/コクソン』みたいな怨念ドロドロのホラー映画を連想するところだが、しかし蓋を開けてみれば然に非ず。なんというか、実に人を食ったような不条理コメディに仕上がっている。全編に渡って得体の知れない不穏な空気を漂わせつつ、しかし理屈で説明できない奇妙な現象には恐怖よりも可笑しみやペーソスが感じられ、やがて愛と憎しみが表裏一体となった人間の「情」というものの不思議が浮かび上がる。このにわかに形容しがたい味わいは、ある意味で『哭声/コクソン』的なのかもしれない。とりあえず先入観なしで見るべし。
韓国ロケが醸し出す不穏な空気
原作が前川知大の戯曲だけに、舞台劇を見ているような感覚に陥る。前川が『散歩する侵略者』で組んだ黒沢清監督作のような思わせぶりなカットもあるなか、室内での撮影も多く、「なぜ、全編韓国ロケ?」という疑問も浮かぶが、その効果は絶大で、常に不穏で奇妙な空気を生み出すことに成功している。その極みが、『哭声/コクソン』を思い起こさせるエネルギッシュな祈祷シーン。今年さらに躍進した岡田将生や川口春奈が演じる兄妹の絡みといったコミカル演出など、ひとつのジャンルでは収まらない仕上がりになったので、★おまけ。ただ、同じ原作&監督コンビによる『太陽』同様、観る人を選ぶ作品であるのは事実だ。
こんなドッペルゲンガーなら怖くない!?
ホラーと謳ってはいるが、いちばん怖かったのはアバンタイトルで、本編そのものはユーモアが先行するつくり。
入江悠監督が『太陽』に続いて劇団イキウメの舞台劇を映画化。説明的なセリフが多いのはもちろん、クスッとさせるセリフの間や笑いも、そのまま引用。ドッペルゲンガーを扱うも中盤以降はホラーとしての機能が止まり、ファンタジー、さらには人間ドラマへと広がる。
ホラーらしいガチ恐いスリルを体感したい方には不向きだが、人間の情けなさに笑いを見出す入江監督らしさは妙味。祈祷をはじめとする韓国の文化やロケも活きて、日常のようでそうではない不可思議な雰囲気を楽しめる。